ニンニク風味「美味だれ」焼き鳥 長野・上田の新名物

長野県上田市では、ニンニクをたっぷり使ったしょうゆダレで食べる焼き鳥が人気だ。60年ほど前から親しまれている郷土の味だが、10年前に地元有志が「美味だれ(おいだれ)」焼き鳥と命名した。
「おいだれ」とは上田の方言で、親しい仲間に「おまえたち」と呼び掛ける言葉だ。焼き鳥に後からかける「追いダレ」であることや、「おいしいタレ」という意味も名前に込め、全国に知られる名物に育てようとしている。

上田市中心部の人気店「つづらや」では、客が卓上のツボからタレを焼き鳥にたっぷりとかけて食べる。炭火で香ばしく焼いた塩味の焼き鳥に、ガツンとニンニクの風味と甘辛味が絡み合い、パンチの効いた味わいだ。
店主の小林ゆみ子さんは、ニンニクダレを考案した「鳥正」創業者の娘。鳥正では鶏肉だけでなく、豚のレバーやカシラ(ホホ肉)なども提供しており「クセのある味に合わせるためにニンニクの風味を効かせた」と証言する。現在も上田では、豚を使った串モノを出す焼鳥屋が多い。
つづらやのタレは塩味の焼き鳥に合うようやや甘め。ニンニクの辛みを和らげてまろやかにするため、作ってから3カ月以上寝かせたうえで使う。鶏にも豚にも合う懐の深い味だ。

上田駅構内の「やきとり番長 上田駅ナカ店」では、たっぷりとタレが入ったコップを客に提供し、串のまま浸して食べる。関西の串カツのように「二度漬けは厳禁」だ。お皿にのせた焼き鳥にタレをかける食べ方も用意しているが、ほとんどの来店客はコップに入ったタレを選ぶ。
タレにはニンニクペーストをたっぷり使い、焼き鳥に絡みやすいようトロッとした粘り気を加えている。「子供にも食べやすいよう、加熱してニンニクの辛みを抑えている」と同店オーナーの小林誠さん。テークアウトでの販売も多く、高校生が買いに来ることもあるという。

古い町並みが残る柳町に店を構える「隠れ家えん」は、午前中から営業しており観光客も訪れやすい。焼き鳥だけでなく、タレを使って作る焼きそばも人気がある。タマネギやニンジンなどの野菜をしっかり炒めて甘みを出し、パリパリに香ばしく焼いた麺とタレを絡める。
タレは焼きそばにも合うよう「リンゴも入れてフルーティーな甘さを加えている」(店主の斎藤嘉康さん)という。店ごとに原料や味に違いがあるのが「美味だれ」の魅力。上田を訪れたときは、ぜひ色々な店をハシゴしてみたい。
地元有志でつくる「美味だれで委員会」が進めている普及活動の一つが、タレを焼き鳥以外の料理でも活用する取り組みだ。地元飲食店やコンビニなどと協力してメニューを開発。唐揚げやラーメン、チキンバーガー、クレープなど様々な可能性を広げてきた。
ボトル詰めしたタレを販売する動きも広がっており、県内の土産物店やスーパーの棚には様々な商品が並ぶ。焼き鳥に使うのはもちろん、揚げ物やサラダ、パスタの味付けなどにも向くという。
(長野支局 畠山周平)
[日本経済新聞夕刊2021年7月8日付]
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