コロナ下の遠隔講義 VRやドローン、大学の工夫多彩に

新型コロナウイルス禍で遠隔授業が大学で導入されるなど、講義風景が一変してから1年以上が過ぎ、新たな課題もみえてきた。オンラインに慣れた学生の満足度を上げるにはどうしたらいいか。入国できない海外の学生にどう配慮すべきか。海外留学が難しいなかで国内で英語力をいかに向上させるか。変化が続く授業の取り組みを追った。
東芝に勤める傍ら日本大学で非常勤講師としてキャリア教育を講義する岩瀬慎平さんは、2021年度の遠隔授業の学生満足度の結果に手応えを得た。20年度は40%だった10点満点が、88%と倍以上に増えた。
「他の先生からも満足度向上の理由を聞かれる」と語る岩瀬さんは、遠隔講義に対して学生が抱く不満点の多くを解消したことが功を奏したと分析する。
「説明資料と音声のみの動画を視聴する講義が大半で単調」「パソコン備え付けのカメラは画質が悪い」「臨場感がなく一方的に話を聞くだけで飽きる」「資料の切り替えに時間がとられテンポが悪い」。こんな学生の不満が岩瀬さんに寄せられていた。
「投影資料や話し方を工夫しているだけでは限界がある」(岩瀬さん)。一眼レフなど複数台の高画質カメラを同時に接続し簡単に切り替えることができれば、テレビ番組のような動きのある高品質の映像を学生に届けられる。最近のウェブ配信技術を駆使することで、対面講義と同等またはそれ以上の臨場感のある講義ができるのではないか。
プロ並みの高音質なライブ配信を手ごろな価格で可能にすると評判の豪ブラックマジックデザイン社のライブスイッチャーを導入したところ「質の高いオンライン授業が可能になり、学生の集中力がとぎれず評判がいい。満足度向上につながった」とみる。
沖縄県を除き緊急事態宣言が解除されたとはいえ、海外の留学生は日本にまだ入れない。白板を背に説明する対面授業を動画として配信する大学も増えているが「学生の満足度は必ずしも高くない」(早稲田大学)との声もある。映像に動きが少ない動画だと、授業に集中させる力も弱まる。
「真骨頂の一つがフィールド研究」(京都大学学術研究支援室)とうたう京都大学では、入国できない留学生もオンラインで参加できる遠隔講義の教材に、仮想現実(VR)やドローン映像の活用を進めている。

工学研究科の立川康人教授が20年秋から、従来の講義資料に加え、京都府を流れる淀川水系の桂川流域や河川整備のVR動画をもとに解説する講義を試みた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の学生と毎夏行う現地調査旅行(フィールドトリップ)など、その他の現地調査の講義についても、VR動画などの教材を充実させ、一般にも無料開放するポータルサイト「Kyoto-ASEAN Virtual Field」を整備した。
千葉大学は全10学部の学生と大学院生の海外留学を、国公立大学としては初めて20年度から義務付けたが、遠隔による留学プログラムも新たに設けた。
英語教育のカリキュラム自体も、グローバル人材の育成を目的に同年度から抜本改革し、英語力の向上を留学だけに頼らない体制を敷いている。
英語のネーティブ教員を増やし、1年次からプレゼンテーションやディスカッション、ライティングなど、英語でコミュニケーションする学習教材を共通化し、必須とした。
2年次には専門分野にあわせた学術英語や、批判的思考を養う英語の授業を進める。
一連の改革を推進した小沢弘明・教育改革担当副学長兼国際教養学部長は「これからの学生は、どんな職に就くにも英語は必須」と語る。値上げした約11万円の学費の一部を英語力の強化策にあてている。
一方的な授業、学生は不満足 DX活用など重要に
授業のあり方について新型コロナ禍でも止めてはいけない課題が2つある。デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用とグローバル人材を育成するための工夫だ。
文部科学省が3月に大学生らを対象にしたアンケート調査によると、オンライン授業の満足度では、自分の選んだ場所やペースで授業を受けられるなどとして「満足」が56.9%と過半に達した。
ただ、遠隔授業で講義資料をパソコンに映して一方的に話したり、授業の録画を流したりするだけでは、学生は満足しないとの声も少なくない。
講義自体をアップデートしなければ、遠隔授業自体が学習意欲をそぐリスクになる。再開されつつある対面授業でも、遠隔で施した工夫を生かしてほしい。
グローバル人材の育成に向けた英語学習は「海外留学させれば何とかなる」との一本足打法だけでは限界があることも新型コロナの教訓の一つと捉えたい。
(編集委員 木村恭子)
[日本経済新聞朝刊2021年7月7日付]
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