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業界用語の善しあし

SmartTimes WAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

私はスタートアップ業界に身を投じて初めて「シリーズA」だの「シリーズB」だのという業界内でよく使われる用語に明確な定義がないことを知った。

シリーズAの説明を今、ウィキペディアで検索すると冒頭の説明はこうだ。

「企業が、最初の重要なベンチャーキャピタル出資を受ける段階を指す名称である。(中略)シリーズAなどの区分は、ベンチャー投資家の投資先の分類などにもともと由来するもので、出資を求める起業家も創業段階からの資金調達の目途としての概念として用いるようになっている」

ここで重要なポイントは最後の「目途としての概念として用いる」という部分である。つまり、例えば企業価値「○億円から△億円の範囲をAとする」とか、「○万円~△万円の資金を調達するのがAである」などの数値定義はない。BもCも同様である。

スタートアップ業界の文化はアメリカのシリコンバレー由来である。もともと背景文化を持たない日本語ではシリーズAもBもCも「第三者割当増資」であり「第三者に株式を割り当てして資本を増やす」ことを指す。

これは正しいのだが、これだけでは、その企業の成長段階や、今回の資金調達で得たいものがわからなくて不便である。

だから、恐らくはシリコンバレーで誰かが使い始めた1回目の大規模な第三者割当増資をA、2回目をB、3回目をCと呼ぶ方法が、例えばCの段階では「その企業の事業モデルは確立しており、それを加速させるための燃料投下としての資金調達であることを期待する」といった暗黙知とともに日本に輸入されたのだ。

このように言葉には暗黙知や共通理解がセットになることが往々にしてあるから、人は言葉によって、時に無意識に相手を仲間かどうか、かぎ分ける。だから投資家に向けては積極的にシリコンバレー用語を使う私も、地方出張をしたならばカタカナ用語はなるべく控える。

前職は独特の社内用語が多い会社だったが、社長の出身企業の独自用語が飛び交っては新しいメンバーには居心地が悪い。上司と部下の1対1の面談を前職では「よもやま」と呼んでいたがヤフーから最高技術責任者(CTO)が来てからは「1on1」と言うようになった。

起業家仲間とは「KGIは何なの」と質問したら議論は弾むだろうが、政治家や官僚と話しているときに「一丁目一番地」と言われて「それはどこの場所ですか」と問い返してはいけないだろう。言葉はビジネス生態系を規定している。

ところで、たった1年強で「密を避ける」は日本で誰もが共通理解を持つ用語となった。

いずれこの意味がわからぬ世代が活躍する時代のために我々は今できる努力をするのだろう。

[日経産業新聞2021年6月28日付]

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