倒産で閉校の張り紙した日 「二度と信用なくさない」
NOVA社長 隈井恭子さん(折れないキャリア)
「女性が生き生き働く姿に引かれて」。新卒で経営破綻前のNOVAに入社した。すぐに店舗運営を任され、夢中で仕事をしたという。「経営が傾いているとは考えもしなかった」

会社が倒産したのはエリアマネジャーをしていた入社9年目だ。「ニュース見た?」。先輩からの電話で破綻を知り、すぐに校舎に向かった。閉校の張り紙をするためだ。「ああ終わった、と心が無になった」
幸いにも英会話教室事業はスポンサー企業に引き継がれ、新会社で平社員として再スタートを切った。仕事の中心は経営破綻で離れていった客一人ひとりに電話することだ。「また、通ってもらえませんか」。断る客もいたが、多くの客が戻ってきてくれた。経営破綻で信用を失う経験を一度したからこそ「もう二度と信用をなくすことはしない」という使命感が芽生えたという。
その後、エリアマネジャーを経て関西エリアの事業部長に。仕事の一つが、収益改善のために校舎の家賃交渉に出向くことだった。「以前の破綻で嫌な思いをしても、また信じて物件を貸してくれている家主さんに『家賃をまけて』とお願いをするのは怖かった」
収益改善の家賃交渉、熱意伝え続ける
最初は取り付くしまもない。だがどうしてもここで教室を続けたい、熱意を家主に伝え続けた。最後は「またつぶれても困るしな」と、理解してもらえたという。そんな日々を経て「何事も経験やな、言うのはタダだしなと、肝がすわっていった」。
だからこそ、40歳で社長就任を打診された際は、驚きはしたが迷いはなかった。北海道から沖縄まで直営店は300校。決めることは山ほどあるが、安易にOKは出さず、分からないことは理解できるまで勉強してから決断している。「社員の質問に私が答えを出す『Q&A』ではなく、質問を返す『Q&Q』になって、周りを困らせたかも」
昨年4~5月の緊急事態宣言時には全校舎を一時休校した。「経営破綻で生徒さんが離れていったことを思い出し、怖くなった」。その経験があったからこそ、新型コロナウイルスへの対応は早い。全店でオンライン授業を配信できる仕組みを2週間ほどで整え、英語学習アプリも開発した。「応戦一方でなく、新たなサービスを発信したい」。そう意気込む。
(聞き手は砂山絵理子)
[日本経済新聞朝刊2021年6月28日付]
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