/

人生100年時代の創造力

SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

知識は企業の競争力の源泉であり、知識を生み出す従業員の創造力は決定的な役割を果たす。程度の差はあれ、大半の先進国で労働力の高齢化が急速に進行している。高齢化と創造力の関係は多数の経営者と従業員にとって大きな関心事であろう。

経済産業省が2018年にまとめた報告書では「人生100年時代の社会人基礎力」を、長期化する社会との関わりにおいて活躍し続けるために求められる力と定義し、基礎力を構成する「考え抜く力」の1つに創造力を挙げている。

心理学や行動科学の領域では、人間の創造性は30歳代から40歳代ごろにピークを迎え、その後、年齢とともに低下するとの見方が多い。加齢に伴う体力の衰えや意欲の低下が創造性を弱めるとみられ、短期間にたくさんのアイデアを生むような量的な生産性は若い人ほど高くなる傾向がある。

創造性にはいくつかの側面があるが、特に柔軟性や空想力といった側面で年齢差があるという学術的な指摘がある。高齢になると、現実に起こりそうもない事柄にあれこれ思い巡らす機会が減ることは自然のようにもみえる。

ただし、健康や性格をはじめとする他の条件がコントロールしにくいため、創造性と年齢の関係については実証研究で必ずしも一貫した結果に収束しているわけではない。

しかも、個人のイノベーション関連能力になると、年齢が上がると高まるという逆の関係を示す研究結果が存在する。イノベーションの実現にはアイデアの創造ばかりでなく、アイデアの実行や普及に関する能力が必要だからであろう。長年蓄積した知識や経験に基づく思考力や判断力が有効に働く可能性は大きい。

経営学の視点から創造性と年齢の関係を対象に実証研究を進める金沢大学の金間大介教授は「他者のアイデアを解釈し、組み合わせ、実行に移すための創造性も今後のイノベーション創出には不可欠であり、ベテラン従業員に期待される重要な役割」と指摘する。

歴史上かつてない高齢化と言われながら、国内における創造性と年齢の関係に焦点を当てた実証研究はあまり多くない。さらに研究開発のような創発活動に専念できる職務分野を除くと、創造性のマネジメントに関する研究は希薄だ。加齢に伴う創造力の低下を補う取り組みを積極的に実践する意義は大きいだろう。

特に職場のような集団の創造性に関しては効果的な手段が存在する可能性がありそうだ。試行錯誤や失敗を許容する風土、年齢打ち止め感を払拭する人事制度、性別や専門分野等に関して多様性を持った従業員構成、快適なオフィス空間の設計など選択肢は多い。

年齢に伴って創造力の柔軟性の側面が弱まるなら、まずは個人として突拍子もなく楽しいことを空想することから始めてみよう。

[日経産業新聞2021年6月18日付]

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

日経産業新聞をPC・スマホで!今なら2カ月無料

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。今なら2カ月無料の初割実施中!

日経産業新聞をPC・スマホで!今なら2カ月無料

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。今なら2カ月無料の初割実施中!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン