高まる電動飛行機開発
新風シリコンバレー 米インタートラストテクノロジーズマネジャー フィル・キーズ氏
多くのお金持ちが住んでいるシリコンバレーの小さな町、ロス・アルトス市。そこの小型オフィスビルの1階にあるNFTというスタートアップがある。テスラが代表する電気自動車(EV)から次のフェーズとなる電動飛行機の製造を手掛ける会社だ。

NFTはASKAと呼ぶ電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発に手掛けている。ASKAは動力源に電池を採用する個人保有向け飛行機だ。最大4人乗り、時速240キロの速度で400キロまで飛べる。
だが、ショールームには実物はなくモデルのみしかない。担当者に聞いてみると、2022年にフルサイズ試作機を完成させる予定だという。ASKAの定価は78万9000ドル(約8650万円)、NFT社は5000ドル(約55万円)。日本人を含めて予約金を支払った顧客がいるという。
しかし、NFT以外にシリコンバレーで電動飛行機の開発を手掛けている企業はArcher Aviation、Joby Aviation、Opener、Wisk Aeroなど少なくない。ArcherによるとeVTOLのみを手掛ける企業は全世界で300社を超えて、電動小型プロペラ機やハイブリッド型飛行機を手掛けている企業もいる。電池で駆動する飛行機以外にも、水素で駆動する飛行機を開発している企業もある。
電動飛行機市場が拡大する背景には、航空輸送の二酸化炭素(CO2)の発生量を減らすという希望がある。しかし、それだけでは電動飛行機スタートアップへの高い市場評価額を説明できない。報道によるとArcherは38億ドル(約4166億円)の評価額で株を公開する予定だ。競争相手Jobyも66億ドル(約7235億円)の評価額で株式公開を予定している。
両社は個人顧客販売より、「航空タクシー」市場を狙っている。コンサルタントのフレッド・ボーダ氏によると、これは短距離運航市場でeVTOLが持つ特長から従来旅客ヘリコプターより市場が拡大する可能性があるという。eVTOLはヘリコプターよりはるかに静かで、離着陸が可能な場所を広げることができる。さらに運航コストは大幅に下がる見通しだ。
eVTOLはEVと同じく従来ヘリコプターより燃料やメンテナンスが安く、運営が可能な時間が高まることが見込まれている。
一般の運航は5~15分で、相乗り自動車サービスと同様、アプリで頻繁に顧客を集められる。5人乗りの飛行機が1日間に可能な運航数がヘリコプターより多い。Archerによると、ウーバーの配車サービスで77分の運賃は59ドル(約6470円)なのに対し、都市型航空交通が同じ距離で飛ぶ22分の運賃は50ドル(約5480円)で実現できるという。
電動飛行機市場で日米の協力が進んでいる。報道によると、トヨタ自動車がJobyに投資をして、デンソーとハネウェルが電動飛行機用途モーターの製造で契約を結んだ。
[日経産業新聞2021年6月15日付]
