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脱炭素、個人の行動変革がカギ 排出「見える化」、具体策急務

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

4月下旬、グローバル市場調査会社イプソスが公表した「気候変動への対策行動の理解に関する調査」の結果は極めて興味深いものだった。

日本、調査対象で最低

EVに乗り換えることでCO2の排出削減に貢献(ローマ)=ロイター

調査の回答者は30カ国・地域の2万1011人。「自分自身、気候変動への対策として個人が行うべき行動を理解していると言えるか?」という設問に対して、日本人で「はい」と答えた割合は40%で最低だった。「いいえ」と答えた人の割合も17%で、ロシアに次いで2番目に多い。

生真面目とも言える日本人の性格が反映されている側面は否定できない。謙虚さからか、他地域より「自信をもって何をすべきか分かっている」が少なく「分からない」が多い傾向はあるだろう。それでも30カ国平均で「はい」が69%、「いいえ」が8%だったことを踏まえると、日本では「個人がどんな行動を取るべきか想起できていない」という状況がうかがえる。

2017年にスウェーデンのルンド大学の研究者らが発表した数字も注目を集めた。複数の論文や炭素計算モデル、政府関連報告書を分析し、先進国の個人が1年間に貢献できる温暖化ガスの排出削減量(二酸化炭素=CO2=換算)を推計した。

それによると、植物由来の食事をすることで0.8トン、電気自動車に乗り換えると1.1トン、再生可能エネルギーだけを購入することで1.5トン、長距離の飛行機利用を避けると1.6トン、自動車を利用しないことで2.4トン、それぞれ削減できるという。

この発表は、一般によく行われる、白熱球をLEDに取り換える(0.1トン)、可能な限りリサイクルを心掛ける(0.2トン)などの行動が必ずしも削減に大きくは貢献しないことも明らかにした。

残念なことに日本ではこうした個人の行動を排出削減量と結び付けて明示したり、比較したりするようなメッセージはほとんど聞かれない。

欧州は鉄道シフト誘導

欧州ではいま、長距離移動の手段を航空機から鉄道にシフトするよう誘導する政策が広がっている。

オーストリア政府は20年7月、オーストリア航空に救済策を講じる際、国内のウィーン―ザルツブルク線(飛行時間は約45分)は鉄道で代替可能として廃止を求めた。フランス国会も、鉄道で2時間半以内で行ける目的地への航空路線の開設を禁止する法案を審議している。

20年12月9日に欧州連合(EU)の欧州委員会が発表した「持続可能でスマートな移動戦略」では、「高速鉄道の輸送量を15年比で30年までに2倍、50年までに3倍にする」という目標が盛り込まれた。こうした政策が打ち出せるのも、温暖化ガス排出削減に貢献する個人の行動とは何かが、人々に認知されてきている背景があるからだろう。

翻って、日本でも脱炭素社会への移行は喫緊の課題となっている。

20年9月には「地球温暖化対策計画」の見直しの議論が始まった。現在の計画は16年5月に閣議決定されたものだが、今回の見直し結果は11月に英グラスゴーで開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに国連に提出する日本の「自ら決定する貢献(NDC)」の追加情報になる。

現在の案では「脱炭素型ライフスタイルへの転換」と題する節に「国民一人ひとりの理解と行動変容の促進」に関する記載が予定されている。具体的な中身はまだ明らかになっていない。

6月2日に成長戦略会議に提出された「成長戦略実行計画案」においても「ライフスタイルイノベーション」と題し、製品・サービスのCO2排出量の「見える化」を進め、消費者に脱炭素型の製品・サービスの積極的な選択を促すインセンティブを付与するとの文言がある。しかし、成長戦略フォローアップ工程表を見ても同じ文章が24年度以降まで再掲されているだけで、具体的なブレークダウンはなされていない。

日本では温暖化ガスの排出削減に役立つ個人の行動を明確に示すと、民間の既存ビジネスの営業を妨害しかねないという批判がかねてあった。政府がむやみに私権を制限すべきではないという主張だ。

新型コロナ対応の教訓

ただ、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で我々が学んだことのひとつに、何が社会的な感染拡大防止に貢献する個人の行動なのかを科学的根拠に基づいて網羅的に列挙して、行動変容を促すことが重要だということがある。

相互比較できない状況のままで情緒的な呼びかけを繰り返すばかりでは、効果は上がらないだろう。そして個人からの支持も得られない結果に終わるはずだ。

今回の「成長戦略実行計画案」が、製品・サービスのCO2排出量の「見える化」を進め、消費者に積極的な選択を促す、としたことは評価したい。そうした値を算出することは、範囲をどこまで含めるかで大きく結果が変わり、信頼に足るものにはならないという批判が容易に想像される。ただ日本にはライフライクルアセスメント(LCA)に関し、優れた研究の蓄積がある。より説得力ある数字を算定できれば、値を更新すればよいだけの話である。

いずれほとんどの製品・サービスの価格表示にCO2排出量が併記されるという社会をゴールにして、まず走り始めることを提案したい。

[日経産業新聞2021年6月11日付]

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