女性は自身を過小評価しがち 自己肯定感高める教育を
ダイバーシティ進化論(児玉治美)

私は小学校や高校の一時期を米国で過ごし、その後非政府組織(NGO)や国際機関で仕事をしながら20年近く海外で生活した。2008年からはフィリピンに本部があるアジア・太平洋の途上国の開発を支援するアジア開発銀行で貧困や気候変動など幅広い課題に関わっている。
私にとってジェンダーや保健の問題はライフワークであり、人格やキャリア形成の基礎でもある。自分の経験をもとに、このコラムでダイバーシティについて皆さんと考えていきたい。
インポスター症候群という言葉がある。自分の成功を実力ではなく運や周りの人のおかげだと思い、自分を詐欺師のように見て過小評価することだ。成功に動揺し、昇進に消極的になる。女性やマイノリティー(社会的少数派)に多いといわれ、私自身もこのように感じたことが何度もある。
なぜ多くの女性が同症候群に陥るのか。幼少期から家庭や社会で「おとなしく控えめに」とジェンダー規範を押し付けられ、自信をなくしているためだ。
学生時代から、リーダーになることに懐疑的な女性たち
国際NGO「プラン・インターナショナル」が世界19カ国の15~24歳の女性に行った19年の調査では、リーダーとしての能力に多少なりとも自信を持つ日本の女性の割合は27%と全体平均(62%)を下回った。20年に日本の学生男女千人に行った調査では「将来リーダーとして職場で責任のある仕事」を希望する女性は9%と男性の半数に留まり、女性は学生時代からリーダーになることに懐疑的だった。
背景には責任ある地位に就くには長時間労働をしなければならず、プライベートとの両立を諦めなければとの意識がある。育児や介護などケア労働との両立の難しさに加え、競争や押しの強さといった男性的なリーダー像と自分自身のイメージの不一致も一因だ。
日本政府は20年までに女性管理職の割合を30%にすると目標を掲げていたが、18年時点で12%と世界平均の27%を大きく下回る。「20年代の可能な限り早期に」と目標を先送りした。
改善には男女ともにワークライフバランスを実現する政策やジョブ型雇用の普及、クオータ制の導入などが急務だ。未就学児からジェンダー平等教育を進め、性別役割分業意識をなくすことも不可欠だ。自信がない女性をつくっているのは社会であり、女性の自己肯定感を高める教育なしには女性リーダーは育たない。

[日本経済新聞朝刊2021年6月7日付]
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