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立ち上がる「インパクト金融」 環境・社会 効果示す企業に好機

Earth新潮流 日経ESG編集部 藤田香

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

環境や社会に配慮し、持続可能な資源の活用を促す「サステナブル金融」がここ数年、世界的に株式から債券、ローンへと急速に広がっている。

株から債券、ローンへ

米テスラも「インパクト投資」対象として成長性の高い企業に数えられる=ロイター

世界持続的投資連合(GSIA)によると、世界のサステナブル投資残高は、2016年の22兆8380億ドル(約2500兆円)から18年には30兆6830億ドルへと34%伸びた。20年の実績は7月に発表される予定で、日本サステナブル投資フォーラムの荒井勝会長は「かなりの伸びが期待される」とみる。

サステナブルな債券とローンの発行額も、20年に前年比29%増の7321億ドルになった。グリーンボンドやソーシャルボンドに加え、企業のESG(環境・社会・企業統治)に関する目標の達成度合いと発行条件を連動させる「サステナビリティ・リンク・ボンド」など様々なタイプの債券が発行された。

企業の「脱炭素」実現を支援するトランジション(移行)ボンドも登場し、幅広い企業が発行できる環境が整った。

融資では、企業のESG目標と融資条件を連動させる「サステナビリティ・リンク・ローン」が伸びてきた。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に対応する企業が、温暖化ガスの削減目標を設定して融資を受ける例が増えている。

拡大するサステナブル金融市場の中でも、最近立ち上がってきたのが「インパクトファイナンス」だ。脱炭素や健康などの社会課題を解決して「社会的インパクト」を創出するとともに「経済的リターン」も生み出す金融だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への成果を実質的に生み出す金融だと言える。

一般的なESG投融資も社会への成果を生み出すが、インパクトファイナンスは社会を変える明確な意図があることや、インパクトの測定・管理を行うことが要件となる。

グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)によれば、世界のインパクト投資残高は20年に7150億ドルと前年から42%増えた。市場拡大の背景にあるのは欧州連合(EU)の政策だ。

テスラやモデルナに投資

「見せかけのESG」の排除を目的に、EUでは3月、「サステナブル金融開示規則」が適用された。EU域内で販売する金融商品を、サステナビリティを促進するものとそれ以外に分類した。投資家は自らの投資が持続可能でインパクトを創出するものか、意識せざるを得なくなった。

インパクト投資ファンドの中でも大きなリターンとインパクトを創出して注目されているのが、三菱UFJ国際投信が設定し、日本の個人投資家向けに提供している「ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド」だ。

このファンドは英運用会社ベイリー・ギフォードが運用する。インパクトを生むテーマに「平等な社会・教育の実現」「環境・資源の保護」「医療・生活の質向上」「貧困層の課題解決」の4つを掲げ、成長性のある企業25~50社に投資している。3月時点の銘柄は米テスラ、米モデルナ、台湾半導体大手台湾積体電路製造(TSMC)、日本のエムスリーなどだ。

同ファンドの過去1年の騰落率は105.9%増と、参考指数MSCIの56.5%増をはるかに上回っている。好成績の理由は、企業を見極めるベイリーの眼力だ。トップと面談して成長の伸びしろを判断し、選定した銘柄を長期保有する。

同ファンドは社会への効果について「インパクト・レポート」で開示している。例えば20年のレポートでは、二酸化炭素(CO2)削減に貢献する4銘柄の合計削減量を1億1700万トンと定量的に開示している。

同ファンドの資産総額は5月時点で1036億円。ベイリーは同じ運用プロセスで世界の機関投資家の資金も運用している。その残高は20年3月の約800億円から21年5月には約8000億円に拡大した。機関投資家の関心の高さがうかがえる。

日本のアセットオーナーも海外のインパクト投資ファンドに投資を始めた。日本生命保険は20年7月、ヘルスケアや教育、金融サービス、再生可能エネルギー、食料・農業のテーマでインパクトを創出する米大手投資会社TPGの関連ファンド「Rise」に21億円を投資した。その後、健康・医療分野のベンチャーに投資する米国のファンドに約105億円を投資した。

同社が海外のインパクト投資に乗り出したのは、インパクト投資の世界潮流や欧米の機関投資家からインパクト測定の知見を得ることも目的だ。ノウハウを学び、2年後には年間300億円のインパクト投資を想定している。

りそなアセットマネジメントは3月、日本の社会課題解決に取り組む国内上場株に投資するファンド「りそなローカルインパクト投資」を組成し、運用を始めた。持続可能な町づくりとインクルーシブ(包摂的)な社会に関する10テーマでインパクトを生む20~50の銘柄を選定。企業年金基金から預かる資金のうち、合意を得た企業年金の資金をファンドにつぎ込む。現在は数億円規模で20銘柄だが、今後金額を増やす。銘柄は約10年保有する。

「インパクト投資ファンドの組成で重要なのは企業との対話。社会を変える意思を見極め、目標を共有し、重要業績評価指標(KPI)をともに設定した。インパクトを最大化できるよう企業の背中を押していきたい」と、同社執行役員で責任投資部長の松原稔氏は話す。

「証明」求める時代に

銀行の融資でも「インパクト」の波がじわり押し寄せている。三井住友信託銀行は国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の「ポジティブ・インパクト金融原則」に沿った世界初のインパクト融資を19年に始めた。不二製油グループ本社などこれまで17社に合計1500億円以上を融資した。

企業ごとに大きなインパクトを及ぼす領域を特定し、KPIを設定して達成度と融資条件を連動させている。「1社ごとにKPIを設定するのは手間がかかるが、企業は事業が及ぼすリスクと機会の新たな視点が得られる。これからは融資でもインパクトが主流になるだろう」と金井司フェロー役員は断言する。

持続可能か、どの程度インパクトを創出できるか。サステナブル金融は「証明」を求める時代に突入した。社会課題を本気で解決し、社会に成果を生み出したい企業にとって好機が到来したと言える。

[日経産業新聞2021年6月4日付]

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