e―加賀市民制度 「関係人口」時代の切り札に
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
石川県加賀市がe-Residency(電子市民、電子居住権)プログラムである「e―加賀市民制度」を2021年度中にスタートすると発表した。文字通り電子上の市民であり住民票を持つ住民でなくても市民になれるという制度である。

実は、加賀市はマイナンバーカードの交付率が65.1%と全国の市でナンバーワンだ(総務省発表、5月1日現在)。マイナンバーカードを活用した市民向けのオンラインサービスも提供している。そのインフラがあるため今回の電子市民の仕組みも簡単に構築できるという背景がある。
電子市民になると、滞在日数に応じて加賀市往来時の宿泊費などを支援してもらえたり、セミオンデマンドタクシーが利用ができたり、コワーキングスペースなどが無償で借りられたりといったサービスが用意されている。移住の手続きや法人設立も支援してもらえる。
電子市民は小国エストニアのサービスが有名だ。歴史的に周辺の大国に征服されてきた歴史もあり、電子政府に取り組んできた。世界中のエストニア電子市民がエストニアで起業したり、働くことなどを積極的に支援している。
加賀市もブロックチェーンを活用したこのエストニアのプラットフォームを参考に構築している。小国のエストニアと人口7万弱である加賀市が共通の取り組みをしているという相似も何か縁があるのだろう。
人口減少社会の中では、これまでのように移住してもらう施策だけでは限界がある。多くの自治体は「関係人口」という何かしらの形でつながりを持つ市民を増やすことに目標をシフトしている。
ニューノーマル時代にオンラインで仕事が可能になった人が増えたことで、一年に一回旅行に来るような人だけでなく、年に数カ月だけ加賀市住むというような多拠点生活を行う人達も増加することが期待される。そうした人々を取り込むことが新しい地域活性の方向であり、電子市民のサービスはそうした人々を増やす施策となっている。

加賀市は電子市民に限らず他にもMaaSやドローンなど新しいテクノロジーによるイノベーション施策を次々と打ち出している。なぜこうした施策を実現できるのかという質問に対し、宮元陸市長は「これからますます首長がスピード感をもってリードしないと(いけない)」と語る。今回の取材もネットのメッセンジャーで直接語りかけたところ素早い対応をいただき、自らデジタル行政を率先されていることを実感した。
デジタル庁の創設によりデジタル化の加速も期待されるが、地域でもこうした先進的な取り組みは生まれている。中央集権だけではなく多様性を許容する形も求められるだろう。宮元市長も「自治体の標準化は基本的なものは急ぐ必要があると思うが、それぞれ自治体の特色や独自性も尊重される融通の効くものであってほしい」と語る。
地方創生というかけ声が始まって久しい。ふるさと納税の考え方を発展させ、移動やサイバー空間上での活動に応じて住民税を市町村に分配できるような制度を目指すならば、最初の一歩はこの電子市民制度かもしれない。
[日経MJ2021年5月28日付]