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協議進展担う 英国の手腕 COP26、金融・市場活用に注目

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

4月下旬、バイデン米大統領が選挙公約に掲げていた気候変動サミットがオンラインで開催された。欧州連合(EU)や米国、日本に続き、英国も温暖化ガスの排出削減目標の引き上げを発表した。

COP26は11月に英グラスゴーで開催される(関連会合に出席したジョンソン英首相)=ロイター

新興大国の中国やインド、ロシアは参加したものの、中国は従来の目標を繰り返し、インドは一人当たり排出量の少なさをアピールするなど取り組み強化に向けたメッセージはなかった。

9月の国連総会、10月の20カ国・地域(G20)首脳会議、そして11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)と、米国主導の国際交渉は続くだろう。

COP26は英グラスゴーで開催される。温暖化対策の国際枠組み「パリ条約」の目標達成のためには各国の削減目標引き上げが不可欠で、25年のCOPが見直し交渉の場になるとみられていた。ところが新型コロナウイルス禍でCOP26が1年先送りされ、その間に米政権が交代。世界的に気候変動への取り組み強化の機運が高まり、節目の会議として浮上してきた。

パリ協定などを振り返れば議長国が重要だった。COP26で削減目標の強化が実現できるかは議長国である英国の手腕にかかっている。英国の政策をみることで交渉戦略も見えてくるだろう。

英国の気候変動政策と言えば「炭素予算」だ。6月末までに承認予定の第6次炭素予算では、33~37年の排出量を9億6500万トンとしている。これは35年に1990年比で78%削減することに相当する。1人当たり排出量でも30年に4.5トン、35年に2.7トンとなる。現在の日本が9.5トンで、46%削減しても6トン程度であることを踏まえると、非常に野心的な目標であることがわかる。

背景にあるのが英国の産業構造だ。総付加価値でみた製造業比率が10%程度とドイツの22.6%、日本の18.5%などに比べて低い。サービス産業、特に金融の重みが増しているからだ。

削減の手段も電気自動車(EV)への転換、洋上風力発電、水素、二酸化炭素(CO2)の地下貯留(CCS)、原子力発電などが挙げられる。森林吸収では排出量取引も想定している。これらは英国の自然環境や産業構造の特徴を生かしており、得意とする分野でもある。

しかしもう一つ注目したいのは、英政府がエネルギーごとの計画値を示していないことだ。炭素予算で道のりを示し、さらに投資環境を整えることで多様な選択肢間の競争とイノベーションを促す。どのエネルギーをどれだけ使うかは市場に任せる。これは英国の伝統的な経済・産業政策に沿ったものといえる。

もう一つの特徴は金融だ。気候変動リスク情報の開示を求める「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」と、民間主導の排出量取引市場の拡大を目指す「ボランタリー市場拡大のためのタスクフォース」(TSVCM)は、マーク・カーニー前イングランド銀行総裁が深く関与している。国際標準化機構(ISO)で検討中のカーボンニュートラル(炭素中立)の国際規格の事務局は英国規格協会(BSI)だ。

3月、スナク英財務相はイングランド銀行のミッションに気候変動対策を追加すると発表した。「中央銀行が気候変動リスクの評価や規制に踏み込むのか」といった賛否両論はあるが、中央銀行が気候変動問題に本格的に取り組むのは世界で初めてだ。気候変動問題と金融といえば至る所に英国旗がはためいている。

COP26の議長を務めるアロック・シャルマ氏=ロイター

英国が官民挙げて気候変動と金融に取り組むのには理由がある。気候変動リスクが高まり続ければ、融資や債券、保険、為替などに大きな影響を与え、金融市場が09年の金融危機とはけた違いの規模で混乱する可能性がある。英国は国際金融の中心であり、金融が最重要産業の1つでもあることから警戒は当然だ。

英国のEU離脱も背景にある。自由な金融取引が政策の影響を受けるのを恐れ、フランクフルトやパリに機能を移転させる金融機関もいる。また世界的な金融緩和でマネーがあふれ、競争も激しい。

金融機関は収益率低下への対策としてハイリスクな投資に手を出さざる得ない状況だ。気候変動問題対策で投資需要を生み出し、また、取り組みの遅れた金融機関を市場から排除することは英国の産業政策にとって必然だろう。

COP26のポイントは30年の目標の見直しであり、最大の排出国である中国の削減が争点になるだろう。会議を仕切る英国が力を発揮できる「技術オプションと市場メカニズムの活用」と、「資金余剰の現実を踏まえた金融の活用」の2つに注目したい。

英国は洋上風力を重視するが、CCSや原子力も排除せず、最適な組み合わせは市場に任せる構えだ。日本も国際金融のハブを目指すというが、英国は資金量だけでなく制度作りに注力する点で進んでいる。人と情報が集まり、市場としての懐も深くなる。日本も技術と金融の活用を打ち出すが、アプローチの違いは参考になりそうだ。

[日経産業新聞2021年5月21日付]

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