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欧州や中国、脱炭素へ政策着々 日本も工程表の作成急務

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

4月22日は「アースデイ」だった。この日に環境保護を考える集会を呼びかけるという運動は、1970年に米国で始まったとされ、全世界へ広まっていった。

気候変動サミットはオンラインで開催された(4月23日、米ホワイトハウスのスクリーン)=ロイター

国連は2009年に、この日を「国際母なるアースデイ(International Mother Earth Day)」とすることを採択し、名称は定着している。21年はバイデン米大統領が世界の40の国・地域の首脳を招待し、気候変動サミットをオンラインで開催した。主要国の今後10年間の取り組みや資金的裏付け、クリーンエネルギーへの移行、イノベーションなどをテーマに、その内容が生中継で一般公開されるという、前例のない、画期的なアースデイとなった。

バイデン米大統領は総括コメントで「日本が13年比で50%を小幅に下回る水準の(温暖化ガス)排出削減を行うことを歓迎する。現行目標のほぼ2倍だ」と言及した。さらにホワイトハウスが掲載した会議報告も「日本は30年までに従来の26%削減目標に比べて顕著な加速となる50%削減に向けて鋭意努力するとともに、46%ないし50%を小幅に下回る水準の排出削減を行う」と記述している。

米国は、新たな削減目標を「30年までに05年比で50~52%削減」と発表した。日本にも、相応の削減目標の上積みを求める期待が目立った。

アースデイに先立って、今後の重要なカギを握る2つの文書が公表されたことにもぜひ、目を向けておきたい。

ひとつは4月2日付で中国の人民銀行、国家発展改革委員会、証券監督管理委員会の3機関が連名で作成した「グリーンボンド支援プロジェクト目録(21年版)」だ。

環境改善効果を持つ事業やプロジェクトに資金使途を限定して資金調達を行う債券をグリーンボンドと呼び、世界で新規発行が増えている。中国では根拠とすべき複数の通達によって、グリーンボンドと呼ぶにふさわしい事業やプロジェクトを定めてきた。

従来の通達では、大規模な超々臨界圧または超臨界圧の石炭火力発電所の建設も資金使途の対象として許容してきたがゆえに、欧米の投資家からは「グリーンボンドとは呼べない」という批判が相次いでいた。それを今回の文書で、削除した。

20年7月、中国政府は低効率な石炭火力発電所の廃止目標を通達している。それでも石炭火力発電自体を止めることは、まだ宣言していない。今回の通達は「二酸化炭素(CO2)の排出について30年までにピークに達することを目指す」とする方針の具体的な一歩になろう。

一方で、今回の通達は原子力発電所の建設・運用や原子力機器の製造を、的確な資金使途の対象として明記した。この点も、欧米の一部の投資家からは、批判があったが、ここは中国の立場を鮮明にしたかたちだ。

3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の「政府工作報告」で「安全性を確保しながら原子力を積極的かつ秩序立てて開発する」と、10年ぶりに政府が「積極的開発」を口にしたこととも辻つまはあっている。「60年までにカーボンニュートラルの実現を目指して努力する」という目標達成のため、原子力発電を有力な担い手とするという政治判断を推し量ることができる。

タクソノミーなどについて記者会見するマクギネス欧州委員=右(4月21日、ブリュッセル)=ロイター

ふたつ目の文書は、4月21日に欧州委員会が公表した「欧州連合気候タクソノミー委任法令」だ。生物学を起源とし、分類、分類学、分類法などの意味を持つのがタクソノミー(taxonomy)という言葉だ。これを「地球と社会の持続可能性に貢献する経済活動のリスト」として、域内の資金の流れや経済活動に誘導していこうという壮大なプランだ。

タクソノミーは3年以上前に構想され、世界中を巻き込んで議論が繰り広げられてきた。20年末から実施された法令原案のパブリックコメントには、実に4万6590件のコメントが寄せられた。欧州委員会は欧州議会から委託されるかたちで、細則を定める権限を持ち、今回、ようやくその内容が確定した。

気候変動の緩和については(1)森林(2)環境の保全・復元(3)製品製造(4)エネルギー(5)水供給・下水道・廃棄物管理・浄化(6)輸送(7)建設・不動産(8)情報・通信(9)専門・科学・技術サービス――の9分野、88の経済活動が詳細な適格性の基準とともに記載されている。

原子力発電については合意の形成に達せず、結論は年内に作成される補完的な委任法令で示すことになった。とはいえ、欧州委員会は第1弾となるタクソノミーの確定を受けて、今度は対象事業に投融資する金融機関の情報開示の制度化に着手している。「地球と社会の持続可能性に貢献する経済活動にどれだけ資金供給を行う金融機関か」を可視化するという仕組みだ。

中国や欧州のように、どのような事業やプロジェクトが持続可能性に貢献するのかを明示する政策手法に対して、日本は「グリーンかグリーンでないかの二元論では、低炭素化に向けた企業の着実な取り組みが評価されない恐れがある」として、否定的な立場を取っている。

民間の自由な経済活動に政府の介入を最小限にすべきだとの建前だろうが、「46%削減」の目標ですら「緻密に積み上げたわけではない」というのではやはり心もとない。世界では第一級のテクノクラートらが、気候変動の危機に立ち向かうための知恵比べをする時代になった。日本でも業種別の工程表やロードマップ作成が俎上(そじょう)に載っている。その完成を急ぐ必要がある。

[日経産業新聞2021年5月14日付]

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