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東証再編、企業価値向上の始点 統治や収益性、海外に見劣り

Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

東京証券取引所の市場再編まで1年を切った。2022年4月に東証1部など4つの市場区分を廃止し、プライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編する。海外でも類を見ない大規模な再編だ。

注目は、現在の東証1部市場に相当する「プライム市場」だ。東証はプライム市場を「世界と戦える精鋭企業を集めた日本トップ市場」だと位置付ける。米国や欧州をはじめとする海外の株式市場では、ESG投資を呼び込むための競争が激化している。こうした競争に勝ち、海外投資を呼び込むのが狙いだ。

3つのハードル

プライム市場の上場基準で企業にとって大きなハードルとなるのは、流通時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、独立社外取締役3分の1以上の3つだろう。

流通株式に関する2つの基準は、政策保有株式の縮減が必要となる。株式を広く公開し、投資家との対話で企業価値を向上させる意思があるかどうかが問われる。

独立社外取締役の基準は、経営の中核に社外の目を取り入れ、取締役会の実効性を高める狙いがある。取締役の多様性を強さにする経営も求められる。

プライム市場にはどのような企業が所属するのか。今回、QUICKの協力を得て調査を実施した。21年2月26日時点の東証1部と2部の企業を対象とし、先の3つの条件で絞り込んだ。

その結果、プライム市場の候補企業は922社となった。現在の東証1部上場企業の半数以下になる。

では、プライム市場の候補となる922社は、どのような企業なのか。

業種では、情報通信・サービスその他が25.6%で最も多く、電機・精密の16.2%、素材・化学の13.0%、機械の10.2%と続いた(50社以上の業種のみ抽出)。

取締役会における独立社外取締役の比率はどうか。これは、比率3分の1~4割未満の企業が56.8%と最も多かった。半数以上の企業が、プライム市場の上場基準である3分の1とほぼ同水準である。米国や欧州では、独立社外取締役比率が半数以上の企業が多い。プライム市場の候補企業は、海外企業と比べるとまだ少ない。

取締役会で議事を進行する取締役会議長は誰か。社長が65.8%と最も多く、会長が27.7%で続いた。海外では議長を社外取締役が務めるケースが多い。プライム市場の候補企業で社外取締役を議長にしている企業はわずか4.2%にとどまった。

株主から預かった資本を効率的に使っているかを示すROE(自己資本利益率)はどうか。0%未満が11.6%、0~5%未満が27.5%、5~10%未満が32.3%と、約7割の企業が10%未満だった。

QUICKリサーチ本部ESG研究所の中村俊之氏は、「米S&P500や欧州BE500企業の4~5割はROEが15%以上との試算もある。プライム市場は海外投資家の注目も高く、一層のESG課題への対応と収益性向上が求められる」と指摘する。

「ESGの開示強化を」

外国人株主比率は、1割未満の企業が16.5%、1~2割未満が32.5%だった。プライム企業候補の約半数の企業が外国人株主比率2割未満で、海外投資を呼び込む余地があると言えそうだ。QUICKの中村氏は、「海外投資家からESG投資を呼び込むには、ESGの取り組みと開示の強化が必要。評価機関にも企業との相互理解に向けた対話の深化が期待される」とする。

調査結果を俯瞰すると、プライム市場の候補企業であっても、海外企業と比べるとガバナンスや収益力で見劣りすることは否めない。企業が価値向上の努力を続け、投資家がそれを促す正の循環がつくれるかが課題となる。

企業の目的は、企業価値の持続的な向上といえる。10年後、20年後も企業は存続すべきものだ。将来にわたって価値を提供し続け、社会から必要とされる企業になれるか。東証再編はゴールではなく、持続的な価値向上のためのスタート地点にすべきだ。

金融庁が4月6日にコーポレートガバナンス・コードの改訂案を公表した。独立社外取締役の増員を促し、指名や報酬を社外取締役に任せる「モニタリング・ボード型」の経営を推奨している。経営者にとっては規制のように思えるかもしれない。しかし、改訂コードは投資家の期待の表れでもある。内容について企業価値向上や持続的成長の視点で対話できない経営者は、この先、投資家から厳しい選別にさらされるだろう。

投資家の役割も大きい。ESGを企業価値として正しく評価し、利益を出し、海外企業に勝てるように取り組みを引き上げていくべきだ。企業に対する目利きとエンゲージメント(投資家対話)の質の向上が欠かせない。

取引所の魅力は企業の魅力に他ならない。プライム市場が海外に負けない魅力ある市場になれるか。それは、日本企業が持続的に成長できることを示し、実際に収益を上げられるかどうかにかかっている。これからスタートラインに立つ。

[日経産業新聞2021年5月7日付]

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