バイクで保育園迎えも 挑戦続け、初の社内女性役員に
ロート製薬上級執行役員 力石正子さん(折れないキャリア)
関西弁を交えながらしゃべる元気なリケジョ。1982年の入社以降、点眼薬「新V・ロート」や排卵日検査薬「ドゥーテスト」といった数々のヒット商品誕生に関わってきた。2018年にはロート製薬初の女性の社内役員に就任したフロントランナーだ。

出身は富山県高岡市。子供の頃から元気いっぱいで「坂道を自転車でがーっと下るのが大好きやった」。ある日派手に転倒。大けがを負い病院のお世話に。これをきっかけに、医療分野を志すようになった。
大阪大学薬学部に進学し、製薬会社への就職を目指した。だが多くの企業が、女性に対して自宅通勤を暗黙のルールとしており、応募すらできない。「目に見えない壁があった」。教授の紹介でロートの面接を受け、入社にこぎ着けた。
まずは研究や製品情報分野でキャリアを積むことに。女性社員の少ない時代、仕事と子育ての両立の壁にもぶつかった。終業と同時に250ccのバイクを駆って保育園に子供を迎えに行く毎日。レストランに家族を残して仕事に向かったことも。その都度「なんとかなんねんな」と乗り越えた。
だが96年、2人目の子供に自閉症の疑いがあることが発覚した。このときは「仕事を1年休むことにした」。社会福祉施設に母子通園しながら子供と向き合う日々。「世の中にはどうしようもないことがある」と改めて学んだ。一人ひとりの考えや思いを大切にすることの重要性も再認識した。この経験を通し「価値観が変わった」。
復帰後、関わった機能性化粧品ブランド「オバジ」の立ち上げでは「ほかの人の意見を素直に受け止められるようになっていた」。最初は医薬品から化粧品分野への転身にとまどったが、同僚や皮膚科医師らと意見を交わすうち「新しいことをやってみようや」と奮起。チームメンバーが提案した「製品を自らの手や顔に使い、効果を見せながら売り込む」という方策も採用し、成功させた。
役員になってからは見知らぬ社員からも「女性役員ができてうれしい」と声をかけられる。「リキさん」の愛称で相談を受けることも多い。「気を抜くと『このままでええか』となってしまう。社内外のネットワークを広げて新しいことに関心を持ちたい」。常にチャレンジを続ける。
(聞き手は高城裕太)
[日本経済新聞朝刊2021年4月26日付]
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