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脱炭素へ 大学・研究機関連携 人材育成へ、動機づけに課題

Earth新潮流

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

国内の大学や研究機関が脱炭素に向け連携を強めている。政府が120以上の大学・機関を集めて組織を設立するほか、自発的に再生可能エネルギーへの転換をめざす「自然エネルギー大学リーグ」も近く発足する。横のつながりが薄かった大学間で知見や経験を共有し、脱炭素社会を担う人材を育てるのが狙いだ。ただ大学により取り組みには温度差もあり、動機づけや評価の仕方などに課題が残る。

千葉商科大は自前のメガソーラーを建設し、再生エネへの転換を進める(同大提供)

「脱炭素のドミノ(連鎖)が大学などに広がり嬉しく思う」。3月23日、文部科学省や環境省、経済産業省などの主催で、脱炭素に向け関係省庁と大学トップが意見交換する「学長サミット」がオンラインで開かれ、小泉進次郎環境相が期待を表明した。

会合では東海国立大学機構の松尾清一機構長(名古屋大学長)ら5人の大学トップが脱炭素の取り組みを紹介。これらを受け「大学が科学的知見を創出し、地域に貢献する役割は大きい」とする声明を採択した。参加大学や機関は夏をめどに「カーボン・ニュートラル達成に貢献する大学等コアリション(連合)」(仮)を設立する。

大学側からの自発的な動きもある。再生可能エネルギーへの転換をめざす大学が集まる「自然エネルギー大学リーグ」だ。千葉商科大の原科幸彦学長の呼び掛けに国際基督教大、和洋女子大、聖心女子大、東京外国語大など6大学の学長が賛同。2月に準備会を立ち上げ、6月の発足に向け多くの大学に参加を呼び掛けている。

参加の要件は、2030~40年をめどに学内で使用する電力を再生エネで生産・調達すると宣言すること。目標年限に弾力性をもたせつつ、電力の転換を果たした後は熱供給や輸送なども再生エネに切り替えていく。

呼び掛け人の原科学長は「リーグを通じ、必要な知識やノウハウ、経験を共有したい」と話す。

千葉商科大自体、「23年に自然エネルギーに100%転換」といった目標を掲げ、実践してきた。千葉県野田市のグラウンド跡地に大規模太陽光発電所(メガソーラー)を設け、キャンパス内の照明も発光ダイオード(LED)に転換。電気の購入先も、再生エネによる電気を供給する新電力に切り替えた。

国際基督教大も栃木県那須町の那須キャンパスの一角にメガソーラーを設置。独自の「環境宣言」を発表して再生エネの利用を意欲的に進める。リーグ設立後はこれらの経験を他大学とも共有する考えだ。

人材育成もリーグ設立の大きな狙いだ。参加予定の大学の多くは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関する学内講座や公開講座を提供している。カリキュラムを拡充してリーグ内で共同利用し、産業界や自治体で脱炭素を担う人材を育てていく。

社会全体が脱炭素へ動くなか、大学や研究機関は温暖化ガスを多く排出する主体として、責任がより厳しく問われるようになってきた。

例えば東京大は年間16万8千トン(19年度)の二酸化炭素(CO2)を排出し、都内の大企業の業務系事業所と比べても最多の部類に入る。ほかの大学でも、特に理工系学部は実験などで大量の電気を消費し、温暖化ガスの排出削減は急務だ。

世界をみても学術機関の多くが脱炭素に動き出している。国連の気候変動枠組み条約事務局は自治体や企業、大学などに呼び掛け脱炭素をめざす「Race To Zero(レース・トゥ・ゼロ)」を進める。これに参加する教育機関は4月時点で570を超えた。

それに比べると、日本の大学や機関の取り組みは遅れていた。

産業界では事業活動で使う電力をすべて再生エネに切り替えることを宣言する「RE100」がよく知られ、ソニーや富士通など主要企業が参加。中小企業や団体が参加できる「REアクション」も発足したが、大学の参加は一握りにとどまる。

原科学長は東京工業大に長く在籍した経験から「総合大学では原子力発電の位置づけなどを巡り研究者の意見が異なり、意思統一が難しい」と話す。

実際、大学が環境対策を実行するにあたり、意思決定やガバナンス(統治)の体制が整っていないのは大きな課題だ。環境NGO(非政府組織)がつくる脱炭素投資研究会とパワーシフト・キャンペーン運営委員会は20年、都内の国公私立大学139校に脱炭素の取り組みをアンケートし、49校が回答した。うち「温暖化ガス削減へ長期的なビジョンや目標がある」と答えたのは52%、環境報告書や温暖化対策計画書を作成・公表しているのも45%にとどまった。

報告は「多くの大学でガバナンスが脆弱」と分析。行政の規制がないと対応しない受け身の姿勢があると指摘した。

こうした状況を改善する手掛かりのひとつが、外部からの評価をテコに大学の意識改革や行動を促していくことだ。

英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」は19年から、SDGsへの貢献を学内外の活動や研究の観点から順位づけした「インパクトランキング」を公表。21年は世界から申請があった1115大学中、日本の73大学がランキング入りした。

SDGsの17の目標ごとにも順位をつけ「気候変動に具体的な対策を(目標13)」では、東北大の世界32位を筆頭に日本から7大学がランクインした。

産業界では投資家が環境保全や社会貢献の視点から企業を選別するESG(環境・社会・企業統治)投資が広がり、環境対策を後押ししてきた。大学や研究機関でも取り組みを見える化して、国による機関評価の項目に加えたり、ステークホルダーに情報開示したりする仕組みが要る。THEのような海外の評価だけに頼るのではなく、日本独自の評価指標があってもよい。

(編集委員 久保田啓介)

[日経産業新聞2021年4月23日付]

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