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民間型クレジット、高まる関心 実質排出ゼロ、二重使用に課題

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

二酸化炭素(CO2)の実質排出ゼロ目標を掲げる企業が増えている。「ネットゼロ」とも呼ばれるが、ネットとは省エネルギーや再生可能エネの利用に加え、CO2クレジットなどによる排出量の相殺(オフセット)も選択肢になっているということだ。

排出ゼロ(ゼロエミッション)技術の開発や電力のゼロエミ化の不確実性を考えれば現実的な考えだ。クレジット利用は省エネやエネルギーの脱炭素化などの後の最後の手段とされている。またネットゼロ達成期限はまだまだ先であり、すぐに利用が急拡大するものではないが、産業界の関心は高まってきている。

日本でオフセットと言えば2008年からの京都議定書第一約束期間が思い出される。産業別の自主行動計画や、08年洞爺湖サミットの排出削減ではクリーン開発メカニズム(CDM)など国連が管理するクレジットが使われた。また、現在、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で交渉されている国際排出量取引はCDMの後継になる。

しかし、今、企業が注目しているのはこうした各国の削減目標に使われるクレジットだけでなく、民間団体などが発行し、管理しているボランタリークレジットだ。VCS、ACR、Gold Standardなどいくつかのブランド(プログラム)があり、19年には年間1億トン、2億8千万ドル(約300億円)相当が取引された。東京ガス北海道ガスのゼロエミ液化天然ガス(LNG)で使われたのも、こうしたボランタリークレジットだ。

しかしクレジット利用に関しては、環境非政府組織(NGO)から「グリーンウオッシュ」、保守派からは「資金流出」と批判的な意見がある。何が「グリーンウオッシュ」か解き明かし、またグリーン成長に貢献することを明らかにすることで安心して使える環境を整備することが必要だ。国際金融協会(IIF)がサポートする「ボランタリー市場拡大のためのタスクフォース」(TSVCM)、国際標準化機構(ISO)の炭素中立のための国際規格検討、さらには業界団体の国際排出量取引協会(IETA)など様々な場で信頼性向上と利用拡大を目指し議論されている。

ボランタリーオフセットは規制にはない独創的な取り組みの積み重ねで発展してきた歴史がある。市場関係者や研究者、NGOなどが集まれば出てくる意見も様々だが、論点は3つに集約されそうだ。

第一は規制市場との関係。ボランタリークレジットは削減事業が多様で、利用者の期待も違うため価格にも差がある。そこで安心感と市場拡大を重視し、各ブランドの評価基準を統一し、パリ協定や各国規制などに基づく市場に近づけるべきだとの意見もある。利用拡大のため一物一価を実現し、コモディティー市場化を目指すということだ。

最大の議論は、国境を越えたクレジット取引が各国の排出削減目標に与える影響、いわゆる政府が掲げた削減目標に対しての二重使用の問題となる。途上国が排出目標を持たなかった京都議定書時代にはなかった新しい課題だ。パリ協定のルール順守がボランタリー市場でも標準となれば価格は大幅に上昇するだろう。クレジットの売り手にとっては歓迎だが、利用者の負担は大きい。活用拡大には悩ましい問題だ。

第二は対象分野。再生エネ、省エネ、家庭、廃棄物など様々なクレジットが作られているが、IETA傘下のボランタリークレジット団体が推奨する「確実な削減」「他の環境問題への悪影響回避」などの要件を満たしたものだ。今後については、ネットゼロ社会ではクレジットの供給源は大気中のCO2を減らす森林などに限定されるとの考えから、森林吸収など限定的に発行すべきだとの意見がある。他方で、二酸化炭素地下貯留(CCS)などのイノベーションや農業手法改善による削減など新しい分野開拓を重視すべきだとの意見もある。後者は、今人気の高い森林クレジットをリードしたのはボランタリー市場だという成功事例に倣ったものだ。

第三は管理システム。誰がどのような事業で削減したか、それを誰がどのような排出をオフセットするために使ったか、などの管理や情報開示はブランドごとに行われている。これでは二重使用を防ぐことはできないと、パリ協定のクレジットを含めて中央集権的に一括管理する仕組みを目指す意見がある。ブロックチェーン技術の活用を狙ってIT(情報技術)分野の新興企業や世界銀行などが提案している。難点は、システム開発など初期コストと維持運営費用を誰が負担するかだ。

日本を含め世界中で脱炭素社会実現のための規制は強化され、また企業にはそれを先取り、上回る対応をすべきだとのプレッシャーが強くなり、クレジットの需要は高まるだろう。また、クレジットはイノベーションの価値を高め、グリーン成長を後押しする。市場整備は欠かせない。クレジット生産者と需要者の双方の意見を聞きながら、標準化と独創性のバランスをとることが大事だろう。

[日経産業新聞2021年4月16日付]

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