欧米大手で進むD2C対応 顧客体験磨きブランド価値向上
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
近所の靴屋に行けば買うことができたナイキのスニーカーが買えなくなっている。ナイキが推進するD2C戦略の結果だ。D2Cはダイレクト・ツー・コンシューマー「顧客に直接届ける」の略称。小売店などを介さず、メーカーが直接顧客に商品を届ける販売手法を指す。Eコマースが浸透し、多くのD2Cスタートアップが生まれているが、ナイキやアディダス、ディズニーといった大手ブランドも、D2Cを強化している。
ナイキは2017年に、スニーカーを売るだけでなく、購入体験すべてをコントロールしようと「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス」というD2C戦略を打ち出した。具体的には、オンラインやアプリを介した販売の強化。顧客と直接つながることで、ロイヤルティーを高める。継続的な接点を持つことで、さらなる購入を促したり、服やスポーツギアなどのクロスセルにつなげることも可能になった。
また17年時点では3万以上あった卸先を約40社に絞り込むと発表された。19年にアマゾンでの販売をストップ、加えて有名百貨店やスポーツショップでの販売を停止し、商品の販売店舗をしぼっている。個人商店など、ローカルの靴屋への卸しも同じく停止。このドラスチックな対応は物議を醸しているが、こうすることで大幅な値下げなど、ブランドを毀損する行為を防ぐことができる。
引き続き販売を続けている小売店もある。ディックス・スポーティング・グッズやフット・ロッカーといったスポーツショップ、スニーカーショップでは、店員に適切な教育を行い、店舗内に特設エリアを設けるなどして、ナイキのブランド体験を強化する形で販売を続けている。
直販と小売店を介した販売では、中間マージンがない分、得られる利益は大きく異なる。20年、21年度の決算発表では、このD2C戦略が大きく成果を出している。

この動きは、ナイキだけでなく、アンダーアーマーやアディダスといったメーカーも続く。アディダスは3月に中期計画を発表し、25年までに売上高の50%をD2Cとすることを目指すと発表したばかりだ。
またD2Cに積極的なのはスポーツブランドだけではない。コンテンツ配信を行うウォルト・ディズニーも、ディズニープラスという独自の配信サービスをスタートしている。ディズニーの決算書ではこの事業は「Direct-to-Consumer」というカテゴリで分類されており、直接顧客にコンテンツを届ける取り組みとして意識されていることがうかがえる。
他にも、飲料・スナックメーカーのペプシコは20年、「PantryShop.com」「Snacks.com」という直販サイトをオープン。スナックをバンドルで届けたり、自社ブランド横断の詰め合わせボックスを販売するなど、顧客の直接フィードバックを受けながら新しい販売方法にトライしている。
今後も大手メーカーやブランドのD2C化は加速していくだろう。良い商品を提供するだけでなく、トータルでの顧客体験の設計が求められている。
[日経MJ2021年4月16日付]
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