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動き出すカーボンニュートラルLNG、脱炭素へ新手法

Earth新潮流 編集委員 松尾博文

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

二酸化炭素(CO2)を実質的に出さない液化天然ガス(LNG)の利用が始まった。LNGの生産や消費に伴って生じるCO2相当分を植林などの手段で削減・吸収し、排出を差し引きゼロとみなす。カーボンゼロの有望な手段として需要家も関心を寄せる。

東京ガスと14社・法人はカーボンニュートラルLNGの普及を目指す新組織を立ち上げた(9日、東京都千代田区)

東京ガスいすゞ自動車三菱地所など14社・法人は9日、都内で「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」の設立を発表した。都市ガス事業者と需要家が一体で、カーボンニュートラルLNG(CNLNG)の普及・拡大を目指す新組織だ。

メンバーは製造業だけでなく、商業施設、金融、教育など多岐にわたる。事務局となる東京ガスの野畑邦夫副社長は「足元で最も具体性のあるカーボンニュートラルの手段だ」と語った。

東京ガスは2019年7月、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルからCNLNGを1カーゴ、約7万トン調達した。このLNG自体に特別な仕掛けはない。使えば天然ガスの掘削から液化、輸送、燃焼にいたる過程で24万~25万トンのCO2が出る。

シェルはこれをペルーの森林保全、インドネシアの泥炭地の自然保護、中国の植林という3プロジェクトでのCO2吸収・削減によって得たクレジットで相殺する。クレジットは国際的な民間認証機関の認証を受けている。このLNGを燃やしても、地球全体でみれば排出量はゼロと見なす。

購入は脱炭素の手段に

アライアンスの14社・法人はこのLNGを東京ガスから購入。東芝は4月から府中事業所(東京都府中市)と小向事業所(川崎市)で使うガスをすべてCNLNGに切り替える。ニュー・オータニはホテルニューオータニ(東京・千代田)のコージェネレーション(熱電併給)システムの燃料に使い始めた。

動機は環境対応だ。東芝の上條勉執行役常務は「工場ではボイラーや工業炉などでたくさんのガスを使う。温暖化ガス排出のネットゼロ実現には、ガスへの対応も欠かせない」と語った。

CNLNGの売買はじわりと増えつつある。シェルは東京ガスのほか、中国や韓国などの企業に供給した。東京電力ホールディングス中部電力が火力発電・燃料事業を統合したJERA(東京・中央)は19年にインド向けに、三井物産は21年2月に北海道ガスに供給した。数年後には3000万トン規模の市場になるとの見立てもある。

CNLNGはクレジット分のコストが上乗せされ、従来より割高になる。東京ガスはシェルからの調達価格を明らかにしていないが、一般に調達価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり0.3~0.6ドル高くなるとされる。これが最終需要家にも転嫁される。

それでも需要家が購入するのは、都市ガス利用に伴うCO2を減らす手近な手段だからだ。

カーボンゼロの実現にはまず、エネルギー利用を化石燃料から太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電する電気に切り替えていく必要がある。しかし、生産現場などで必要となる高温の熱をすべて電力で代替するのは簡単ではない。

都市ガスの脱炭素化には、水素とCO2を組み合わせて都市ガス主成分のメタンをつくる「メタネーション」技術がある。期待は大きいが、実用化には時間が必要だ。森林吸収などのクレジットで相殺するCNLNGは、その間を埋める。

CNLNGは受け入れ基地やパイプライン、需要家の設備を変更せず、そのまま使える。東京ガスの清水精太ソリューション共創部長は「脱炭素への移行には安定供給の維持と既存のインフラを生かすことが重要だ」と指摘する。

価格決定権などに課題

課題も少なくない。CNLNGの供給はメジャー(国際石油資本)や一部のトレーダーに頼る。買い手は売り手がどこでどのような手段でクレジットを得たかをわかっても、そのコストを検証するのは難しい。価格決定権を一方的に握られる危険がある。

CO2の排出量や削減効果の測定方法についての基準も未整備だ。CNLNGを使うことで得る削減効果は投資家に企業の姿勢を訴える材料にはなるが、現時点では温暖化ガス削減の環境義務達成の実績に利用することはできない。世界のLNG取引は約3億6000万トン。これをすべてカバーする環境クレジットの確保は現実的でない。

とはいえ、CNLNGは化石燃料の利点をいかす現実的な選択肢だ。日本企業もバイヤーズアライアンスなどの活動を通して社会的な認知を高めると同時に、透明性あるルール作りへ関与していくことが欠かせない。

東京ガスの清水部長は「アライアンスの参加企業と一緒に植林活動などへの参加を考えている。我々が獲得するクレジットを使ったCNLNGの組成・調達もできるのでは」と語る。消費側からの働きかけが新手法の普及・定着のかぎを握る。

[日経産業新聞2021年3月30日付]

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