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バイデン政権、気候変動対策に力 ルール作りへ外交先行

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

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米国では大統領就任後100日で選挙公約がどれだけ実現できるか決まるという。バイデン大統領の目玉政策、気候変動対策もスタートダッシュが重要だ。

気候変動問題担当のケリー米大統領特使(左)はルメール仏経済・財務相と連携強化へ協議した(3月10日、パリ)

外交面の動きは早かった。就任初日にパリ協定復帰に署名し、米国主導の気候変動サミットを4月22日と決めた。また、気候変動外交のけん引役となる気候変動問題担当大統領特使にケリー元国務長官を据えた。ケリー特使は2009年のコペンハーゲン会合では議員外交の中心として、15年のパリ協定は国務長官として中国と交渉した経歴を持つ。

中国が経済や安全保障面で最大の脅威と認識される中で、気候変動問題が中国中心に動くことを見越しての任命だろう。中国は既にパリ協定による削減の枠組みの中にあり、パリ協定前とは異なり、米国からは「協調」より「プレッシャー」が強くなりそうだ。中国もそれを意識し、ケリー特使の元交渉相手でハードネゴシエーターと知られた解振華・元国家発展改革委員会特別代表を気候変動担当特使として復帰させた。

欧米と中国はけん制

中国に対する圧力手段となりそうなのが「炭素調整金」だ。米民主党は伝統的に労働者保護を重視する。環境政策は重要だが、雇用が失われるのは困る。そこで大統領選挙公約に盛り込んだのが、パリ協定を順守しない国からの輸入品への課徴金だ。EUの炭素国境調整税と同様の発想だ。

世界輸入の半分近くを占める米・EUが規制に動くことの影響力は絶大だ。ただ、米国はカーボンプライスを課していないこともあり、ケリー特使は「最後の手段」であるべきだと、先行するEUをけん制している。。

中国は気候変動対策の抑止力としてレアアースなどを使うとの見方がある(モンゴル自治区のレアアース採掘場)

対する中国が期待する抑止力はレアメタル、レアアースだろう。電気自動車(EV)に必要な高性能モーターや蓄電池といった気候変動対策、デジタル革命、さらに防衛産業にも欠かせない。中国が世界最大の供給者であり、世界生産の90%ほどを占める資源もあり、10年のレアアース危機は世界に衝撃を与えた。

中国は20年12月に戦略物資に関する輸出管理法を施行したが、これは反撃準備ともとれる。米国は2月23日にカナダと戦略物資についての協力を再確認するなど報復措置に備えている。

国際交渉における最大の争点は、温暖化ガスの削減目標だ。米国がいつ、どのような削減目標を再提出するのか注目されている。

下院エネルギー商業委員会が3月2日に発表した「クリーンな未来」(Clean Future Act)は50年のネットゼロに加え、30年の50%削減を目標とした。オバマ政権時代に掲げた25年の26~28%を上回る。国際エネルギー機関(IEA)が世界の平均気温の上昇を2℃以下に抑えるために示した、いわゆる「2℃シナリオ」とほぼ同等の削減だ。10年足らずの間に大幅な削減は容易でなく、米議会の同意は難しいという意見が多いようだ。

新法案にメッセージ

この法案「クリーンな未来」には900ページ以上にわたって様々な政策が書かれている。そのまま議会を通過するとは考えにくいが、国内対策に関する重要なメッセージが読み取れる。

第1は「全てのエネルギーの活用」だ。再生可能エネルギー活用やEV促進などは当然含まれている。しかし米国は天然ガス・石油などでも豊富な資源を持つ。二酸化炭素地下貯留(CCS)による化石燃料の脱炭素化、小型原子炉を念頭にした原子力発電の利用などあらゆる可能性を盛り込んでいる。

ほとんどがトランプ政権でも取り組んだもので、前政権の産業政策がバイデン政権では気候変動政策になる、と見えなくもない。これが米国流だろう。

第2は「州の独自性」だ。石油などエネルギー産業、鉄鋼や自動車など伝統的産業は中西部や南部に、IT(情報技術)やEVといった気候変動政策の追い風を受ける産業は西海岸に多く立地する。トランプ政権では二酸化炭素(CO2)規制に積極的なカリフォルニア州の政策について連邦が制限した。今回の法案では各州に実施権限を委譲し、連邦は州境を超える排出量取引類似の仕組みなど産業横断的な施策を行う。

米国内の分断が深まったことを受けて、連邦は外交と横断的な政策、個別の政策の実施は各州という伝統的な役割分担に戻したとも見える。

外交先行、中国への強い要求は確実であり、日本へのプレッシャーも強まるだろう。米国とEUが関心を示す国境炭素調整税は、保護貿易主義のリスクもあり、難題だ。ルールができてからでは遅い。国境炭素調整税の有無にかかわらず、将来かならず必要になるのが、製品や部門別の排出量の算定と数値規制だ。

日本が存在感を発揮するには、省エネ法や温暖化対策推進法の報告制度、国際的な産業別の省エネ協力など現場経験を活用したルール作りへの対応かもしれない。

[日経産業新聞2021年3月19日付]

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