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フードテック欠く成長戦略 新興勢の育成、焦点に

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

世界に先駆けて植物由来の代替肉を開発し、ハンバーガー用パティやソーセージを製品販売する米国企業「ビヨンド・ミート(Beyond Meat)」が2月25日、2020年10~12月期と20年通期の決算を発表した。年間売上高は18年に約8800万ドル(約95億円)にすぎなかったが、19年は約3億ドルに伸長(18年比3.4倍)、さらに20年は新型コロナウイルス感染症が米国ならびに世界で猛威を振るったにもかかわらず、約4億700万ドル(19年比で約1.4倍)になった。

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20年12月31日の時点で、同社の製品は世界80カ国以上の約12万2000の小売店およびフードサービス店で提供されているという。粗利益率は30.1%の高水準を誇る。経済分析のCSIMarketによると19年の食品加工業の平均は粗利益率22.1%というから、ビヨンド・ミートはフードテック企業という形容に遜色はない。

決算発表と同日、同社はファストフード大手のマクドナルドと米外食大手ヤム・ブランズとの「戦略的」提携も公表した。ヤム・ブランズは傘下にケンタッキーフライドチキン、ピザハット、タコベルを擁する企業だ。

マクドナルドとの連携では、「19年にカナダで始めた試験販売を拡大し、同社は植物ベースバーガー分野でマクドナルドのパティの優先サプライヤーになる」「両社は鶏肉、豚肉、卵に関しても植物ベースのメニュー共同開発を模索する」などがうたわれた。

ほかにも、1月26日には飲料大手のペプシコと植物由来のたんぱく質を使ったスナックや飲料品の開発・販売で提携するとして共同出資会社「プラネット・パートナーシップ」設立を発表した。

ビヨンド・ミートのアピールポイントは、(1)遺伝子組み換え作物、遺伝子組み換え成分、ホルモン、抗生物質、コレステロールを含まない単純な成分で、人間の健康に良い(2)気候変動の抑制に効果的(3)自然資源の制約を軽減できる(4)動物福祉の増進につながる――の4つである。

特に(2)と(3)の環境側面の効果には注目が集まっている。18年9月にミシガン大学が1/4ポンドのアメリカン・ビーフのハンバーガーでライフ・サイクル・アセスメントを行った結果、ビヨンド・ミートのハンバーガーになると、エネルギー消費は46%削減、温暖化ガス排出は90%削減、土地利用で93%削減、水資源に至っては99%削減できると試算されている。

19年8月に開催された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第50回総会では、土地関係特別報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、報告書本編が受諾された。

その内容は、農林畜産業と食品加工業の膨大な温暖化ガス排出に警鐘を鳴らした。「農業、林業及びその他土地利用は、07~16年の世界全体の人為的活動に起因する正味の二酸化炭素(CO2)排出量の約13%、メタン(CH4)の約44%、及び一酸化二窒素(N2O)の約82%を占め、温暖化ガスの人為起源の総排出量の約23%に相当した。また、グローバルフードシステムにおける、食料生産・製造の前後に行われる活動に関連する排出量を合算した場合、その排出量は人為起源の正味の温暖化ガスの総排出量の21~37%を占めると推定される」としている。

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翻って日本の農林畜産業と食品加工業におけるカーボンニュートラルに向けた対策はどうなっているのだろうか。20年12月に経済産業省が取りまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、「スマート農林水産業等の実装の加速化による化石燃料起源のCO2のゼロエミッション化、農畜産業由来のGHG(メタン、N2O等)の削減、森林及び木材・農地・海洋における炭素の長期・大量貯蔵の技術等の確立、スマートフードチェーンの活用、持続可能な消費の促進など、資材原料・エネルギーの調達や、食料の生産から消費までのサプライチェーンの各段階の取組を通じて、持続可能な食料システムの構築を目指していく必要がある」としている。

そして「農林水産省においては、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するための中長期的な政策方針として『みどりの食料システム戦略』を策定することとしている」との文章は盛り込まれたものの、植物由来のたんぱく質を使った製品の普及やフードテックに言及する文言は盛り込まれなかった。

カーボンニュートラルを実現するためには、国の産業構造において炭素集約型産業から「炭素非集約型産業への移行」を進める政策は不可欠である。民間でも、パソナグループカゴメなど15社が「プラントベースドライフスタイルラボ(PBL-LAB)」を設立し、植物性食品に関する認知度向上の取り組みや、食と健康に関する意識調査を進めていくという。

世界では、培養肉のような新しいたんぱく質食品を開発する企業も次々と生まれている。中国でもCellXといったスタートアップが注目を集める。ユニリーバ傘下のベジタリアンブッチャーのように、既存の大手企業がフードテックに参入する例も目立つ。日本も大塚食品や日本ハムなどの参入が伝えられている。

植物由来だけでなく、発酵を活用してたんぱく質をつくる技術にも期待が高まっている。取って代わろうとする食材も、肉だけではなくミルク、チーズ、エビなどに広がっている。こうしたフードテック企業は、拡大する世界のESG(環境・社会・企業統治)投資の格好の対象となっている状況だ。

我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」は3月に中間取りまとめ、5月までに戦略を策定する予定だと聞く。

既存の生産者、関係団体、事業者等の利益を擁護するだけではなく、フードテックを広く普及して、競争力を持った新興企業の振興を図るという方針が打ち出せるのか、その真価が問われている。

[日経産業新聞2021年3月12日付]

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