コロナ禍の観光に眠るチャンス 「再生可能な旅」で旅行先も発展
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)
コロナ下の観光業は引き続き厳しい。特にインバウンドは市場が"蒸発"したと表現される。ただ出張や旅行の予約サイトを見ると、人気ホテルのゴールデンウイークの宿泊がすでに予約で埋まっていたり、ビジネスホテルの価格も通常時に戻っていたりと、回復の予兆はあるようだ。このような時期に観光関係者が何をしておくべきか。昨年秋に出版された「観光再生」の著者、やまとごころ代表取締役の村山慶輔氏に聞いた。

書籍の観光再生の提言のなかで、特に刺さったのが「バーチャルツーリズム」「リジェネラティブ・トラベル」というキーワードだ。
まずネットを使ってバーチャルに旅行を実感してもらおうという試みが増えている。たとえばHISは非常に多くのオンラインツアーを企画している。村山慶輔氏は「単なる代替手段としてのオンライントラベルは廃れるだろう。オンラインならではの、楽しさや希少性がないと飽きられる」という。
私も個人主催のものにいくつか参加したが、画像が揺れて少し酔ってしまった。友人が参加した海外の代理店主催のツアーは、現地の電波状態が悪くてぶつ切れになってしまったそうだ。ただ通常では見られないような景色や、卓越したガイドによる解説が楽しめるツアーの人気と満足度はなかなかなものらしい。
視覚、聴覚に加え、旅には味覚、嗅覚も大事な要素だ。「あうたびオンラインツアー」は、オンラインツアーに加えて、その場所の特産物が事前に送られ、同封されたスケジュールに従って、画面を見ながら参加者が自宅で味わうというもの。ただ見て聞くだけでなく、より一層その場所を感じられる。観光とお取り寄せのマリアージュをひそかに提唱してきた私にとって、うってつけのサイトだ。

もうひとつのキーワードが「リジェネラティブ・トラベル」。聞き慣れない言葉だがサステナブルの先を行く考え方だ。サステナブルの「環境に優しい」という考え方から一歩進んで、「環境をよくする」観光を目指す取り組み。「再生可能な旅」と村山慶輔さんは訳している。
具体的には宿泊料の2%のフィーを地域社会に還元したり、廃棄物削減プログラムを実行したりして、観光が地域のよりよい未来の発展につながるような仕組みだ。
遠足に行くと先生が「来たときよりもきれいにしましょうね」と言っていたのを、観光に取り入れたようなもの。これは旅行者としても非常に納得がいく。ただきれいな景色を見て、おいしいものを食べるだけという旅行の楽しみ方に加えて、旅行先に積極的に関わることで、行った場所がよくなるというストーリー。その地域の人と出会い、地域をよくするための共創ができる時間と空間の提供こそ、これからの観光の理想の姿のような気がする。日本でもこの考え方を取り入れる観光地は増えていくだろう。
コロナで観光業は止まったように思えるが、行き過ぎた量への信仰は捨てざるを得ない環境のもと、新しい付加価値、今までにない楽しさが確実に出てきている。観光全体が、まさに再生可能な事業となっていく大きなチャンスと言えるだろう。
[日経MJ2021年3月12日付]