クリエーターがけん引するSNS 「稼げる」仕組み作り 新経済圏に
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
米ツイッターは最近になって、今後の3年間で売り上げをほぼ倍増する意欲的な事業計画を打ち出した。同サイトのアクティブな利用者数を、大きく伸ばすことで実現しようというものだ。同社は米国市場では約9000万人ものフォロワーを誇ったトランプ前大統領のアカウントを永久停止するなどしており、利用者増のためのテコ入れ策が求められていた。
ここで注目されるのが「クリエーター・エコノミー」という考え方だ。作家や音楽家といった創造的な能力を持つ人々の経済活動のことだが、今では「ユーチューバー」、「インスタグラマー」、「ティックトッカー」と呼ばれるような、大手SNS(交流サイト)を舞台にして活躍する人々の活動が巨大な経済効果を生むことを指す。
端的なのはユーチューバーだ。日本でも月収数百万円を誇るようなクリエーターが何人も存在する。これらの活躍でファンが集まり、その舞台となるSNSに大きな収入をもたらす。ここに目をつけた各種SNSやネットサービスは、ユーチューブを追うようにして、クリエーター向けの施策を打ち出しているのだ。
ツイッターの利用者拡大計画でも、活躍するクリエーターがそのフォロワーに課金してもらえる仕組みをいくつも投入する。たとえば「スーパーフォロー」。これによりクリエーターは購読者だけが読める投稿表示機能や、音声会話の場を設けたりできる。
「フォロワーと直接つながり、収入を得る」。これがクリエーター・エコノミーの原動力。ユーチューブも広告収入をクリエーターに還元するだけでなく、「スーパーチャット」という投げ銭機能を「ライブ」向けに始めた。

クリエーターの舞台はSNSだけではない。海外ではコロナ禍でライブ公演など活動の場を奪われた、アーティストらを支援する仕組みが活況を呈している。音楽アーティストなどを支援するクラウドファンディングの「パトレオン」も急成長している。この動きに刺激を受けた老舗音楽ストリーミングの「サウンドクラウド」は、利用者がアーティストを指名して購読収入を支払うファンビジネスのモデルへと変更を計画する。またスポーツ選手をはじめとする著名人が、ファンにあてた動画メッセージを販売できるサービス「カメオ」も米国で話題になっている。
クリエーター・エコノミーは、さらにジャーナリズムの分野にも広がっている。米国では、有名メディアに属して活動してきた著名ジャーナリストが、続々独立してニューズレター(メルマガ)を立ち上げる動きが盛んだ。たとえば、メルマガ配信サービスの「サブスタック」は、著名ジャーナリストに報酬などを保証するなどして派手な引き抜きをおこなっている。
このようなクリエーター・エコノミーの広がりの背景には、コロナ禍で収入手段が限られてしまったクリエーターの存在がある一方、ファンやフォロワーから直接支払いを得ようとする「広告離れ」の要素もありそうだ。「稼げるクリエーター」の争奪戦と、広告にとどまらない「稼ぐ仕組み」の開発ラッシュが、新たな経済圏を盛り上げそうな気配だ。
[日経MJ2021年3月8日付]