現代の「ロビンフッド」
新風シリコンバレー WiLパートナー 小松原威氏
コロナ禍で急落した米国経済の回復の軌跡は、K字型と呼ばれる。持てるものと持たざるものの格差が拡大しているが、持たざるものを救うスタートアップや巨大IT企業の活動も目立っている。

学校閉鎖でオンライン学習に移行するなか、家にインターネット環境がない低所得者層の子供たちの教育格差が深刻な問題だ。2020年、カリフォルニア州のファストフードの駐車場に座り込み、店のWi-Fiを利用してパソコンで宿題する子供たちの写真がSNSで話題となった。
米グーグルや米アマゾン・ドット・コムは数万台のタブレット端末を寄付し、オークランド市の全ての子供にパソコンとインターネット環境を提供するために米ツイッター社最高経営責任者(CEO)は1000万ドルを寄付した。
一方、株価高騰の恩恵を受けてビリオネアと呼ばれる富裕層の資産は、コロナ以降で合計1兆ドル以上も急増し、急激な格差拡大につながっている。
株価高騰について、金融緩和や財政出動に加え、要因の一つとされるのが、ミレニアル世代向け投資アプリのロビンフッドだ。
投資を富裕層だけのものではなく、全ての人に広めることを目指して13年にシリコンバレーで創業。ユーザー数は1300万人を超える注目のフィンテックスタートアップだ。手数料ゼロのこのアプリを通じ、若者を中心に個人が株式市場へ新規参入している。
そのロビンフッドがヘッジファンドと個人投資家の対決の場となり、乱高下したゲームストップ株を巡って、大きな論争を巻き起こしている。
そこで、ネット上で誹謗中傷のとばっちりを受けたのが「ロビンフッド財団」だ。同名だが先のロビンフッドとは無関係な、ニューヨーク市最大の貧困対策の非営利団体だ。
米国では貧困対策として、フードスタンプと呼ばれる低所得者向けの食糧支援プログラムがある。約4000万人もの人々に食料品と交換できる金券のカードが配られている。だが、利用者は買い物の度にこのカードの残高を電話で確認しなければならず、利便性が非常に悪かった。
この問題をテクノロジーで解決するため、ロビンフッド財団が運営するラボから生まれたのが、プロペルというフィンテックスタートアップだ。プロペルは、非常に使いやすく残高や履歴をすぐに確認できるアプリを提供し、クーポンや求人情報も載せることで低所得者の家計改善を強力に支援している。
両スタートアップに縁のある「ロビンフッド」。そもそもは中世イングランドの伝説上の人物で、弱きを助け強きをくじく誇り高きアウトローだ。日本でも募金といえば赤い羽根だが、これはロビンフッドの帽子につけていた赤い羽根が勇気のしるしとして由来の一つになったと言われる。
世界では持てる者と持たざる者の分断が進む。日本でもかつてはアウトローだったスタートアップが、社会的弱者を救う主役になる日もそう遠くないはずだ。
[日経産業新聞2021年3月2日付]