コロナ禍、リアルの場の使い方 テーマパーク、演劇公演で輝く
奔流eビジネス (アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)
年始に出された緊急事態宣言が延長され、リアルの店舗や場所を持っている事業者には苦難の時期が続いている。

2020年の1度目の緊急事態宣言に比べると人々の外出は比較的許容されており、一律に営業が停止されるような雰囲気ではない。とはいえ客足が減ってしまう影響の大きさは、時間がたつとともにハッキリしてくるだろう。
リアルの場所を持っている事業者にとって、3密回避や緊急事態宣言による外出自粛の影響は大きい。営業時間の短縮や営業自粛を行えば、家賃や維持費などのコストが重くのしかかってくる。リアルの場所を持っていること自体がリスクになりかねない。
そんな中、リアルの場所の新しい使い方として注目なのが、テーマパークのサンリオピューロランドと、劇団ノーミーツのコラボで実施された新しいオンライン演劇「VIVA LA VALENTINE」通称「ビバラバ」だ。
このオンライン演劇は閉館後のピューロランドを舞台として活用。ノーカットで50分の演劇をライブ配信する形で実施された有料の演劇だ。無料のネット動画が大量に存在する中、1枚のチケットが2000円以上するにもかかわらず、5回の公演を通じて4000人以上を動員することに成功したそうだ。
人気テーマパークにとって4000人という数字は決して大きい数字ではないかもしれない。だがこのコロナ禍でリアルの演劇で4000人を動員しようとすると、定員が1回100人として、少なくとも200人以上のキャパがある劇場を借り、完璧な感染対策を行った公演を40回以上繰り返す必要がある計算だ。
それがオンライン演劇であれば、少なくとも観客は感染リスクをおかさずに、ピューロランドという広いリアルの場所を活用した演劇を、生で楽しむことができる。しかも今回の配信は通常のピューロランドの営業時間外の実施のため、通常営業には支障を出さずに済む点も大きい。ピューロランドはテーマパークというリアルの場を、オンライン演劇の舞台として活用することで、リアルの場所の可能性の再発明をしたと言える。

コロナ禍により店舗やリアルの場所を武器にしていた企業も、デジタルシフトが明確に必要となった。だからと言ってリアルの場所の価値がなくなったわけではない。
筆者が勤めるnoteも、20年6月にイベントスペースを開設した。当初はリアルに200人の参加者でイベントを開催するスペースとして想定していた場所を、オンラインイベントを配信するスタジオとして活用することで、関東近郊以外のユーザーにもイベントに参加してもらう可能性がひろがることを再確認することができている。
コロナ禍で一度閉店を検討した豚しゃぶの「豚組」も、「コロナに最適化した店舗に生まれ変わる」をキーワードに、全席個室でオンライン予約の顧客入れ替えをしない店舗運営に挑んでいる。
デジタルが進化すれば進化するほど、リアルの場所はリアルならではの価値が明確になっていく。ピューロランドのように、リアルの「場所」の可能性をもう一度見つめ直してみてはいかがだろうか。
[日経MJ2021年2月26日付]