「ふくらはぎ体操」の効用
SmartTimes GMOペイメントゲートウェイ副社長兼GMOベンチャーパートナーズファウンディングパートナー村松竜氏
日本のテレビ番組をつけていた時、娘が「これ見た方がいいよ」と言った。「座り方特集」だった。頭が一番さえている朝の貴重な時間をテレビで費やしたくないんだよね、とコーヒーを持って通り過ぎようとしたが、テレビ画面から聞き捨てならぬ言葉が聞こえてきた。

「正しくない座り方によって、腰痛や肩こり、眼精疲労など様々な不調が引き起こされることがわかってきました」とその特集は始まった。「ついついやってしまう悪い座り方」と4つのタイプが紹介されたので、思わず身を乗り出して見入った。その日も朝8時から1日中、12件のZoomミーティングが入っており、昼食とトイレ以外、休みがない。座りっぱなしなのだ。
理想の椅子の座り方には3つのポイントがあると図解が出てきた。それは(1)足の裏をしっかり床につけること(2)膝も股関節も角度は90度にすること(3)耳、肩、股関節が一直線になること、だそうだ。
そして「足のむくみは足に水がたまるのが原因」と番組は私達を脅していた。ふくらはぎは血液を心臓に戻すポンプの役割があるが、長時間座っていてポンプ機能が衰えると、血液から水分が漏れ出しふくらはぎにたまる。これがむくみの正体なのだという。私はむくんでなんかいないと思いつつ、自分のふくらはぎに水が漏れ出すさまを想像した。
その恐怖に対し解決策が示された。「椅子に座ったまま、かかとを限界までゆっくり上げて下ろす」という運動を10回1セット、これを30分に1回やると効果があるらしい。さっそく直後のZoom会議からやってみた。画面の向こうにいる人に何をそわそわしているのと不思議がられないように、あくまでも会話に集中しながら表情を変えずにやってみた。初回だけかかとが膝の真下にあることを目で確認。あとはゆっくり限界まで上げて、下げる。15回、20回とやる時もあった。するとどうだろう。想像以上の効果が次々に起きた。
まず足がいつもより軽い。初めて気が付いた。今まで足がむくんでいたのだ。耳、肩、腰が一直線になるよう意識してZoom会議を進めた。すると、午後になっても足も背中もあまり痛くならない。長い会議でも良いアイデアが浮かぶようになる。いつも以上に気持ちが前向きになり、普段めったに褒めない人を褒めている自分がいたりする。
これは偉大な行動変化ではないか。座り方を意識したら仕事のパフォーマンスが上がった。しかも、仕事中でもできる運動とあって時間を有効活用できる。投資先の社長には、経営戦略の議論だけではなく「ふくらはぎ体操」の効用も伝えたい。なんと必要投資ゼロなのだ。あのような特集番組はぜひ繰り返しやってほしい。
[日経産業新聞2021年2月24日付]