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アンモニア、燃料活用に期待 供給網、ASEANと整備を

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

2020年後半から中国、日本、米国など主要国が次々と二酸化炭素(CO2)の実質ゼロ目標を表明し、エネルギー産業を含めた多くの企業が同様のネットゼロを目指す姿勢を固めた。目指すゴールが決まれば、次は具体的な戦略だ。そこで日本にとってカギを握りそうなのがアンモニア燃料の利活用だ。

今治造船や伊藤忠商事などはアンモニア燃料を使う次世代船の共同開発を表明した(今治造船の工場)

20年12月に政府が公表したグリーン成長戦略は、50年のネットゼロを目指すための政策や注力すべき技術などを網羅的に示している。

再生可能エネルギーに由来する電力中心のエネルギー構造になるのは明らかだろうが、低いエネルギー変換効率や気象変化による不安定さを確実に克服できるのか、省エネや産業構造の転換によるエネルギー需要削減をどこまで見込めるのか、いずれも不確実性がある。

また空輸や海運といった長距離輸送には液体燃料が欠かせない。そこで期待されるのが、燃やしてもCO2を排出しないゼロエミッション燃料の輸入だ。水素がよく知られているが、最近はアンモニアへの注目度が急速に高まっている。

水素もアンモニアも化学産業などでよく使われており、生産や貯蔵の技術が確立している。ただ、エネルギーとして使うためには安価かつ大量に供給され続けることが必要だ。日本の石炭火力を全てアンモニア燃料の発電に切り替えると年間1億トンも必要といい、世界の生産量が2億トンだからケタ違いの需要を生むことになる。

東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAはアンモニアを混ぜて使う火力発電の実証試験を始める計画だ

生産性の改善、新しい燃焼技術といった技術革新によるコスト引き下げはもちろん必要だ。しかし、それ以上に重要になるのは大量のアンモニアを取り扱う生産設備、タンカーや港湾設備、一時貯蔵の仕組み、日本での陸送・配送に至るまでの新たなサプライチェーンインフラの整備だ。

サプライチェーン整備には巨額の投資が必要になる。一方で需要が大きくなれば、規模の経済性でコスト負担は軽減されていく。市場が大きく育つなら投資資金も流れ込み、イノベーションは加速される。

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つまり、アンモニア燃料で大きな市場を形成することがポイントになってくる。そこで期待したいのが東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。

国際エネルギー機関(IEA)のパリ協定に基づく効果分析によれば、EUや米国、日本はエネルギー需要が次第に減る予測になっている。

しかし、経済成長期にあるASEANのエネルギー需要は40年に19年比で1.6倍。日本の1カ国分に相当する規模で増えるとみられる。再エネ電力は2.6倍に増やす計算だが、それでも足りない。そこにゼロエミ燃料の実需が生まれるという期待がある。

アンモニアは石炭と、水素は天然ガスと混焼が可能であり、既存の火力発電設備を活用できる。稼働から30年以上たつような古い発電設備の多い米欧と異なり、90年代以降にエネルギー需要が膨らんだASEANには比較的新しい火力発電所が多い。脱炭素までの過渡期に、既存の火力発電を有効活用できるのはASEAN諸国にとっても魅力的だろう。

ASEANでは、先進国市場への輸出や域内貿易の面から海上輸送が重要だ。そうした輸送船舶向けにも環境重視の点からアンモニア燃料は期待されており、その前提として発電用に大量のアンモニア燃料が供給される必要がある。

アンモニア燃料はASEANのニーズにあっており、ゼロエミ燃料の利活用において日本と理想的なパートナーになれる公算が大きいのだ。

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ただ、克服しなければならない重要な課題もある。化石燃料を一歩ずつ脱炭素に近づけても、製造する際に排出されるCO2を地下貯留(CCS)で封じ込めたり、使うエネルギーを再エネにしたりすれば、アンモニアも水素も地球規模でみたゼロエミ燃料だ。

ただし、同じ電力でも再エネで作ると「グリーン」、天然ガスで作ると「ブルー」に区別する考えがある。化石燃料は「悪」という考えは簡単にぬぐえない流れがある。「いつまでも化石燃料を使い続けるための言い訳になる」と反対されるかもしれない。

どのような時間軸でエネルギー構造を変えて、CO2を減らしていくのか。エネルギー需給全体を見渡したシナリオを作り、それに基づき制度を整備していくことで、金融機関なども安心して投資できる。

アンモニアのようなゼロエミ燃料を本格的に普及するには、インフラ整備を一気に進めてコストを明確に下げられるかがカギとなるだろう。そして日本でゼロエミ燃料への期待を募らせても、ASEANが望まなければ協力関係は成立しない。

CO2実質ゼロの実現に向けてEUや米国、それに中国は様々な提案活動を始めているが、他国に対して自国の考え方や基準の採用を求める傾向にある。日本にとってはASEAN諸国の多様性を受け入れつつ、長期のエネルギー戦略を一緒に考えて投資で歩調を合わせられるかがポイントになるだろう。

40年にはASEAN全体のエネルギー需要が日本の3倍以上になると見込まれる。もはや日本への供給だけを軸にエネルギー安全保障を考える時代は終わり、アジアと一緒に戦略を描くべき時代に変わった。

[日経産業新聞2021年2月19日付]

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