テークアウトでも総菜楽しめる 東京・四谷のビストロ

2度目の緊急事態宣言で、窮地に陥る飲食店は増え続けている。そんななか、JR四ツ谷駅の近くにある「a La Bouteille」(アラブテイユ)は、次々と対策を打って経営の安定化を図っている。
新型コロナウイルスの感染拡大前はオーナーソムリエの阿井祐典氏のセレクトしたワインを楽しみにする客も多く、ワインバーとしても人気を博していた。カウンター4席、テーブル20席の店内はいつも活気に溢れていた。
だがコロナで昨年春以降、客足は激減した。「コロナの影響は長くなると考え、すぐにテークアウトや宅配に取り組み、昨年5月にはそうざい製造業の営業許可を取得した」(阿井氏)
阿井氏は通販や宅配を始めるにあたり、徹底的に他のレストランの宅配を利用して調査した。見えてきたのはお店で食べるとおいしくても、テークアウトすると風味ががた落ちするメニューが多いことだ。
例えば揚げ物は、持ち帰ることが前提で作られている総菜店の方がおいしく、レストランのテークアウトは容器のなかでこもった湯気で衣がはがれるなど、風味が落ちるものが多かった。総菜店は、時間が経過しても味の劣化が少ない油や粉を使い、包装も工夫されていた。試行錯誤の末に、在宅利用でも味が落ちない煮込みなどのメニューを開発。味の良さからリピーター客は増加した。
昨年夏ごろには「今後のことを考えると商圏を広げたい」(阿井氏)とネット販売にも乗り出した。知人の評価などを参考に、電子商取引(EC)サイト作成サービス「BASE(ベイス)」を活用した。「地方の素晴らしい生産者とのお付き合いから生まれるメニューは多いです。通販といえどもお店で提供するように季節感が感じられる商品にしたい」(阿井氏)
同店の料理は日本各地の生産者とのつながりを通じて仕入れている食材の良さが光る。

メニューの組み立てには発酵食材を取り入れて酸味をアクセントにするなど工夫している。海藻などを積極的に使うなど、現代的であり、挑戦的なメニューにはファンも多いだろう。食べていて発見があるメニューが多く、それらに適したワインとのペアリングを心ゆくまで楽しめるのが同店の強みと感じた。
阿井氏は「アラブテイユの料理はワインと合わせてこそ真価を発揮します」と話す。そうした店の魅力を家庭でも楽しめるように限定の酒販免許を取り、店舗に買いに来たお客のみ、料理といっしょにおすすめのワインを販売している。
飲食店が扱うワインの多くは、専門の輸入業者が業務筋専用に卸している銘柄が多くある。こうしたワインは一般にはあまり流通しないので、レストランでしか買えない、という付加価値をつけられる。
今後は通販に対応した酒販免許も取得し、ワインとセットで四ツ谷のビストロの味を全国に届けたいという。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。おいしいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"おいしい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出合った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2021年2月19日付]
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