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海洋環境生かす「ブルーエコノミー」 脱炭素や藻類で政策競争

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

「ブルーエコノミー」という言葉が国際会議の場などで定着してきた。(1)漁業、養殖業、水産加工業(2)海洋における石油・ガスなどの鉱業(3)海洋再生可能エネルギー産業(4)港湾・水インフラ産業(5)造船・船舶関連産業(6)海運業(7)沿岸地域観光業などを束ねる経済活動の総称だ。

海洋は生物のCO2貯留、エネルギーや食料、肥料などの供給域として経済戦略上の重要度が増加(英ブラックプール沖の洋上風力発電施設)=ロイター

2012年開催の「持続可能な開発に関する国連会議(リオ+20)」では、環境と調和のとれた経済という意味で「グリーンエコノミー」という用語が大きな柱となった。ただ、島しょ・沿岸諸国はブルーエコノミーという表現を強く主張。グリーンがどちらかといえば陸域の環境の豊かさをイメージさせるのに対し、ブルーは海域の環境の豊かさをイメージすることができるからだ。

12~16年の国連の5カ年計画に、この言葉は採用された。海洋は地球表層の72%を占め、生物が存在する領域(水圏、大気圏、岩石圏)で考えると95%以上を構成する。生命は海で始まり、酸素の生成、二酸化炭素(CO2)吸収、栄養素の循環などの面ですべての生命を支え続けている。この意味で海洋の環境保全は極めて重要である。

一方で、海洋は世界人口のかなりの部分に食料と生計を提供し、世界貿易の80%で輸送の舞台となっている。海洋および沿岸部の環境は観光産業にとっても重要な資源だ。探査技術の進展に伴って、炭化水素系資源の3割以上が海底から供給されるようになっており、風力、波力、潮力、海洋温度差、バイオマスなど将来の多様なエネルギー供給の舞台にもなる。

この意味で海洋は人間の経済活動にとって不可欠な要素でもある。環境保全を図りながら持続可能な経済活動を実現・振興させていくというのがブルーエコノミーの考え方だ。

将来、最も大きな期待が寄せられるのは「ブルーカーボン」だ。海洋生物によって大気中のCO2が取り込まれ、海域で貯留された炭素のことを指す。森林がCO2を吸収し固定化する「グリーンカーボン」はよく知られているが、それと対になるネットゼロエミッションのもうひとつの切り札てある。

国際金融に支援の動き

最近では1月15日、日本と米国が最大の出資国となっているアジア開発銀行(ADB)が、欧州投資銀行とブルーエコノミーを支援するための連携強化に乗り出すことを発表した。

ADBは19年に50億ドル規模の「ブルーエコノミーのための行動計画」を開始している。欧州投資銀行もブルーサステナブル・オーシャンストラテジーという方針を有し、持続可能な海洋プロジェクトへの融資を19~23年の間に2倍の25億ユーロと約束。環境への悪影響低減になる投資も50億ユーロの規模にすることを展望している。

今回の連携強化では、海洋プラスチック汚染防止、漁業管理と水産物サプライチェーンの改善、海洋と沿岸部の生態系の保全、自然災害リスクの低減、船舶・港湾・海洋インフラの環境負荷低減に関するプロジェクトを重点的に支援していく予定という。

民間の動きも活発だ。19年6月に欧米の11金融機関が採択した「ポセイドン原則」は、ファイナンス対象の船舶について毎年CO2排出量の削減努力の達成度を評価し、船舶ファイナンスポートフォリオ全体のCO2排出量について削減寄与度を算出して公表するイニシアチブである。

国際海事機関(IMO)が18年4月に採択した「国際海運から排出される温暖化ガスの中長期削減目標」を踏まえ、海運業界の気候変動リスクへの取り組みに対して金融面から貢献することを目的にしている。金融の動きとしては、海洋関連プロジェクトの資金調達を行う債券(ブルーボンド)の発行も増えてきた。中国でも20年9月に初のブルーボンドが発行されている。

ルール作りで主導権

このように海運、漁業、海洋資源開発、海洋バイオテクノロジー研究、炭素固定化など関連する経済活動への注目度が高まるなか、自国や自地域に少しでも有利なルール作りを先導したいという思惑も各国間で顕在化してきている。

陸域とちがって海域では明確な国境線も統治ルールもいまだ確立されていない。海洋ガバナンスのルール形成の主導権を握っておくことは、将来の自国や自地域の競争力を高めると判断されているのだ。

例えば、欧州委員会は藻類に関する戦略を打ち出そうとしている。藻類が医薬品や栄養補助食品、バイオ肥料、バイオ燃料となり、バイオレメディエーション(海洋沿岸の生態系の回復)の手段として有用だという読みがある。

藻類の生産、収穫のガイドラインや藻類製品の仕様の標準化、食品認可手続き、持続可能かつ安全な藻類製品をうたう際のラベリングに関する推奨事項などを作成しようというアイデアが挙がっている。藻類がブルーカーボンの有力な担い手だとして見逃さない。

日本では2050年のCO2排出実質ゼロ宣言をきっかけに、グリーン成長の行方に注目が集まっている。身近な陸域に限定せず、海域にまで広げて考えておくことが重要だろう。遡れば07年成立の海洋基本法は「海洋産業の健全な発展」や「海洋環境の保全との調和」を掲げ、「海洋基本計画」もおおむね5年ごとに見直されているが、気候危機や脱炭素化の視点はいずれも明示できているとはいえない。

国連の呼びかける「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」(21~30年)も始まった。日本は海洋国家であり、「自由で開かれたインド太平洋」を外交政策の基軸にもしている。省庁横断で包括的なブルーエコノミーに関する政策方針をいちはやく確立しておくことが得策ではないだろうか。

[日経産業新聞2021年2月12日付]

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