農家と消費者を近づける「食べチョク」 発信と交流でココロに届ける
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)
何をいくらで買うかということと同じくらい、誰から買うかがとても重要になってきたと思う。「農家と消費者の距離を近づけたい」と話す秋元里奈さんは「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの代表取締役。25歳で農業支援の分野で起業し、3600もの生産者が登録するプラットフォームに育て上げた。

「早く安く届く」ことが当たり前になってしまった今、「ココロに届く」サービスが支持される。ストーリーやバックグラウンドへの共感がないとなかなか買ってもらえない。その発信を手伝うのが「食べチョク」が得意とするところだと秋元さんは言う。
サイト上には各生産者のこだわりに加え、購入したユーザーからのコメントが掲載され、購入の背中を押す。
例えば長崎県平戸で平飼いの養鶏場「ナチュラルエッグラボ」を経営する山野暖尭さん。購入者からのコメントには、買った卵で作った親子丼の写真が掲載されていた。非常に温かいコミュニケーションがなされ、作り手と買い手の人柄が織りなす世界観が、安心・安全というキーワードの特に安心の部分を担保している。「作り手の顔は今までも見せる工夫はあったが、買い手の顔はなかなか見られなかった」と秋元さん。農業や漁業に携わる人が、買い手から直接「おいしい」と言ってもらえる喜びは、モチベーションとなるだろう。
生産者と消費者を近づけると言っても何もかも近づけているわけではない。トラブル対応の一次請けは必ず「食べチョク」が間に入る。ハードルの高いクレーム処理は、売り手も買い手も消耗するものだ。そのような場面で「食べチョク」のスタッフが介在することによって、両者のストレスを最小にする。
クラブハウスも活用している。秋元さんが主催するルームは、その名も「食べチョクハウス」。クラブハウスは直接的な商行為が禁止されており、モノを売りこまないからこそ、逆に人柄の魅力を印象づけられる場となっている。
ナチュラルエッグラボの山野さんも、秋元さんがツイッターで「食べチョクハウス」の紹介をしていたことから興味をもち、何度かスピーカーになっている。「食べチョクハウス」はプロフィルに生産者であることを書けば「食べチョク」の出店者でなくてもスピーカーになれる。

筆者も実際に取材したが、1時間あまりの「食べチョクハウス」のあと、ルームで出会った生産者が新たにルームを立ち上げて、少人数での交流が見られるのは興味深かった。例えれば「食べチョクハウス」という大人数の懇親会のあとに、気の合う人たちで2次会に行くのに似ている。
秋元さんのモデレーターとしての力量は見事。何より、ひとりひとりの生産者へのリスペクトが伝わり、聞いていて心地がいい。産直のプラットフォームは数々出てきているが、実際の商品をしっかり愛用しているところに、トップランナーとしての矜恃(きょうじ)がうかがえる。
発信と交流。ものを売るためには、まず心を動かさないといけない。安いモノを買うというベースを踏まえ、たまには正当な価格で良いものを探したい。買うことは何よりの応援になるはずだから。
[日経MJ2021年2月12日付]