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再編が試す経営者のジレンマ 「選択と集中」コロナで再認識

Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、産業界で大胆な事業再編が始まった。事業をポートフォリオと見なして入れ替える発想は、日本でこれまで一般的ではなかった。しかし、将来性のない事業を抱え続ければ、成長できないどころか、存亡の危機が待つ。不採算事業や将来の成長が見込めない事業を整理し、成長が見込める事業へ投資を回す「事業ポートフォリオ改革」が本格的になってきた。

NTTもNTTドコモの完全子会社化で成長戦略を描き直す

ディスプレーに映った外国人が、日本人の社長と指名委員会委員長に挟まれて自己紹介を始めた。そして語る。「社員と一丸となり、栄誉ある企業をさらなる成功へと導いていきたい」。

三菱ケミカルホールディングスは2020年10月23日、ベルギー出身のジョンマーク・ギルソン氏を次期社長に据える人事を発表した。21年4月1日付で越智仁社長は退任する。同社が社外から外国人の社長を招くのは初めてだ。150年の歴史を持つ名門財閥の中核企業を外国人がかじ取りする。社内やグループ企業に衝撃が走った。

環境重視の機運が高まるなか、化学メーカーは化石資源の使用抑制と省エネルギーにつながる高付加価値製品を強く求められている。新型コロナウイルスの影響は長期化が予想され、ヘルスケアやライフサイエンスといった成長分野への投資も不可欠だ。

同社が20年2月に発表した長期ビジョンでは「温室効果ガス低減、炭素循環、食糧・水供給、医療進化、デジタル社会基盤、人快適化」の6分野を成長事業と位置付けた。売上高に占める6分野の割合を現在の約25%から30年度までに70%超に引き上げたい考えだ。

PBR1倍割れの反映

三菱ケミカルHDは売上高こそ3兆5000億円を超える国内トップの総合化学メーカーだが、時価総額は1兆円前後にとどまる。投資家の期待を示すPBR(株価純資産倍率)は、米ダウ・ケミカルが2.7倍、独BASFが1.5倍なのに対し、三菱ケミカルHDは0.9倍と世界の競合と比べて劣る。

PBRが1倍を下回る企業は、事業を続けるより解散した方が株主の利益になるという評価でもある。ポートフォリオ改革が後手に回った結果、不採算事業を持ち続け、成長の見込めない事業が多く残った。こうした市場の評価が現在の株価に反映されている。

なぜ日本企業は、事業ポートフォリオ改革ができないのか。そこには、日本の経営者が抱えるジレンマがある。

日本企業では、現場の発言力が強い。事業所や工場の現場からは「きっと新製品が売れる」「従業員が奮闘している」「あと1年待ってほしい」という声が上がる。現場でたたき上げられた経営者の脳裏には、奮闘する社員の光景が浮かぶ。そして大ナタを振るう手が止まる。

問題を抱える事業が、自分を指名した顧問や相談役が開始した事業ということもあるだろう。こうした場合、事業撤退の決断に遠慮が働きがちだ。その結果、過度な拡大志向と安定志向が残ったままになっていく。

あえて現場を経験していない、しがらみのない外国人をホールディングスの社長に据え、より客観的かつ冷静に事業再編の判断を下す。三菱ケミカルHDの人事の真意は、ここにある。

本格的な事業再編には、通信最大手のNTTも動いた。20年12月、4兆2500億円をかけてNTTドコモを完全子会社化した。再編を主導したのは、NTT株式の3割を保持する政府だといわれる。

これまで日本の通信インフラを握る「巨象」には同業他社との競争を維持するために足かせをはめてきた。しかし、世界では高速通信規格5Gや次の6Gを巡り競争が激化。危機感を持った政府が、NTTに事業ポートフォリオ改革の断行を迫ったとみられる。

後出しTOB成功も

家具大手のニトリホールディングスは20年12月、ホームセンターを展開する島忠を買収した。島忠を巡っては当初、ホームセンター最大手のDCMホールディングスが株式公開買い付け(TOB)を表明したが、その後にニトリがDCMより3割高い価格で島忠株を買い取る意向を表明。最終的に買収合戦はニトリに軍配が上がった。

ニトリの手法は、これまでなら「敵対的TOB」として非難の対象になったケースだろう。しかし今回は、強者による買収を市場も歓迎した。たとえ「後出し」や「横取り」だったとしても、誰がベストオーナーかは市場が決める。こうした流れが本格化してきた。

事業ポートフォリオ改革を試みながら、道半ばで退くのがパナソニックの津賀一宏社長だ。在任9年。6月の株主総会後に代表権のない会長に退く。電機各社が事業を絞り込むなか、同社はいまだに多くの事業部を抱え、「家電メーカー」から脱却できずにいる。

退任と同時に残す置き土産が、持ち株会社への移行だ。「パナソニックホールディングス」の下に事業会社をぶら下げ、事業の選択と集中を図る。事業ポートフォリオ改革は今後、持ち株会社に託された。

事業ポートフォリオ改革は、終身雇用や年功序列が象徴する日本型経営にどっぷり漬かってきた日本企業の課題そのものだ。危機のなか、いつまでたっても変われない企業に未来はない。勝てる事業を取り込み、将来性のない事業を切り離す。世界の競合に勝つために、日本の経営者のジレンマを超え、変化する社会に合わせて企業の姿を柔軟に変化させていく。そうした経営が必要だ。

昨年末から、企業のガバナンス指針であるコーポレートガバナンス・コードの再改訂議論が始まった。主要な議題となっているのが、まさに事業ポートフォリオ改革だ。政府は改訂コードを22年4月に予定されている東京証券取引所の市場再編につなげたい考えだ。

改訂コードを上場の最低基準として、基準をクリアできない企業は市場から降格させる。いよいよ改革できない企業の「選別」が始まる。

[日経産業新聞2021年2月4日付]

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