「おなごもできる」 女性に機会を 佐藤摩利子さん
国連人口基金東京事務所所長(折れないキャリア)
国連人口基金が世界の人口問題解決に向け、日本と協働するため開設した東京事務所の所長を務める。SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標のひとつであるジェンダー平等実現に密接にかかわる。

秋田市で生まれ育った。父親は「おなごのくせに教育はいらん」が口癖。「同じ人間なのになぜ勉強してはだめなの」と反発し、地元の短大を卒業後、奨学金を得て米国へ留学した。秋田市役所で働いた後、女性学を学ぶため再渡米した。
国際社会を渡り歩いてきたが、最初から自己主張が得意なわけではなかった。米国留学でわかったことがある。発言を控えていると「君の意見はないのか」と聞かれた。そのとき「女性だから意見してはいけない、という旧来的な固定観念に自ら取り込まれていた」と気づいた。
ワシントンDCで女性のデモに参加するなどし、不合理には声を上げる重要性を知った。それは自身を解放して新しい価値観をつくりあげる経験でもあった。
ライフワークと出合ったのは、ウォール街の邦銀で働いていたときだ。国連の「開発と女性」という文献を目にした。世界経済の中心地にいる自分と、途上国で貧困に苦しむ女性の格差に葛藤が深まった。突き動かされて大学院に入学。開発を学び、国連に職を得てからは一貫して途上国の女性支援を仕事とする。
出張したアフガニスタンやソマリアでは表に出るのは男性だが、生活支援のニーズを知るのは後ろにいる女性たちだった。「女性と話したい」。直談判して女性の悲痛な叫びをじかに聞く機会を持った。
水や住宅などインフラ整備に必要な解決策を女性が考え、実行に移された。彼女たちが声を得て生き生きする過程を目にし「おなごでもできる、と秋田出身の自分を重ねた」と話す。
国連人口基金ではリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)推進がテーマだ。子どもを産むかどうか。産むとしてもいつ何人産むかを女性が選べれば、ジェンダー平等の基礎となる。
新型コロナウイルスの流行により、少女が結婚させられる児童婚などが増えるとみられる。「自分の体を守る教育はすべての女性にとって必要だ」。自身のキャリアが教育で開かれたからこそ、その信念は固い。
(聞き手は山下美菜子)
[日本経済新聞朝刊2020年1月25日付]
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