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中国、60年CO2ゼロは可能か 「人口減・コロナ・貿易」対応カギ

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

中国はエネルギー使用による二酸化炭素(CO2)排出の3割を占める世界最大の排出国だ。世界的な気温上昇2度(産業革命前との比較)目標達成の可否は、中国の削減次第といっても過言ではない。本当に実現できるだろうか。

中国のCO2削減は3月の全人代などで具体策がみえてくる可能性がある(河北省の火力発電所)

2020年9月の国連総会で、習近平(シー・ジンピン)国家主席の60年ネットゼロ目標の発表は世界から歓迎されるとともに驚かせた。同11月には第14次5カ年計画と35年長期目標の策定方針が発表されたが、60年ネットゼロをどうやって達成するかなど具体策はこれからだ。各国は21年3月の全国人民代表大会(全人代)を注目している。

全人代に先駆け、中国の政府系研究機関などから様々な分析が示されている。例えば、清華大学気候変動研究所は「2030年目標を変えない場合」「早期に対策を強化する場合」など4つのシナリオで分析した。

その1つが産業、住宅、オフィス、交通などでエネルギー消費を抑え、その上でエネルギー源の9割をゼロエミッションの電力に切り替えるというシナリオだ。

しかし、30年以降に対策を強化しても、その後は急激な削減が必要となる。そこで30年目標を強化し、直ちに削減行動を進めよ、と提案する。

この分析の注目点は森林整備、バイオマス発電と二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の組み合わせなどで大気中のCO2濃度を引き下げる、いわゆるネガティブ排出だ。英国研究機関との共同研究では森林整備で毎年10億トンも吸収できるという。これは日本のエネルギー利用からの排出量に匹敵する規模であり、森林整備への期待は高い。

◇ ◆ ◇

=本郷氏提供

中国政府にエネルギーと気候変動問題でアドバイスする張希良・清華大学エネルギー環境研究所所長は、産業別の分析も詳しく行っている。

張所長は技術的や経済的な制約による「減らしきれない排出」を認識し、化石燃料とCCSの組み合わせによる排出削減が欠かせないと指摘する。中国は今や世界最大の石油輸入国だが、かつて日本にも石油を輸出していた。枯渇油田へのCO2貯留やCO2を使った石油増産技術の活用が可能で、CCSの実現可能性は十分あるからだ。

張所長のもう一つの主張は排出量取引の活用だ。21年から電力部門で本格導入される予定で、その後は鉄鋼、化学、セメントなど6つの産業へ拡大が計画されている。これにより中国の排出量の8割がカバーされる。

張所長は国際競争などにも配慮して、セメントとアルミを優先し、規制値も徐々に強化することを提案する。ただ、50年までにCO2排出の90%を削減するが、残り10%は難しい。だから排出量取引のトン当たり炭素価格は50年の80ドルから、60年に500ドル以上に上昇するとみている。

2060年は40年後であり、技術革新だけでなく、経済政策や社会環境など外部環境の不確実性は大きい。シナリオの実現可能性はどうだろうか。3つのポイントがあると思う。

まずは中国における社会構造の変化だ。人口は減少に向かい、成長率も低下が見込まれる。さらに経済成長を支えたインフラ整備もスピードダウンするだろう。そうなれば鉄鋼やセメントなどの需要も縮小するから、CO2排出は減る。構造調整の進捗がシナリオ実現を左右するだろう。

気になるのは新型コロナウイルスの影響だ。国際エネルギー機関(IEA)はコロナによる経済活動の停滞で、20年の世界排出量は7%減ると見込んでいる。

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しかし、中国はコロナ禍から他国より早く回復し、経済復興が始まっているようだ。グリーン復興を唱えて鉄道などインフラ整備を行い、鉄鋼やセメント生産が増えている。例えば、鉄鋼生産は生産低下の時期があったにもかかわらず、20年は10億トンと最高水準になりそう。CO2排出量はすでに昨年水準に回復している。景気回復策で過剰生産能力が温存されれば、産業構造調整が遅れるリスクもある。

もう一つ忘れてならないのは貿易だ。欧州連合(EU)は温暖化ガスの削減対策強化で産業が競争力を失わないように、排出コストを払っていない製品輸入に関税を課すことを検討している。いわゆる国境調整税だ。米バイデン政権も中国を念頭に、不十分な気候変動対策の国からの輸入への課金を公約としている。中国を本気にさせる決め手は貿易からのプレッシャーかもしれない。

将来は人口減少やインフラ整備の減速でCO2排出が減る可能性も(中国・武漢市内の交通渋滞)

様々な要因はあるものの、中国のCO2排出削減は相当進む可能性があると思われる。しかし60年の実質ゼロは難しい。50年に現在より80~90%削減しても、最後の10~20%は難航するのではないか。また、どうしても削減が難しい産業について排出量取引を活用したオフセットも活用することだろう。

中国の取り組みは、成長の中で削減を進めるインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)などの将来を占う上でも大きい。21世紀後半のネットゼロを目指すためには、50年の世界のCO2排出量は100億トン程度におさえる必要がある。

もしインドが中国並みの1人当たりCO2排出量になったら、インドだけで排出可能な量を使い尽くす計算だ。また、国境調整税の影響を受けるのは中国に限らず、日本も同じだろう。世界の脱炭素シナリオを見る上で、中国の取り組みからは目が離せない。

[日経産業新聞2021年1月22日付]

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