大手利するクッキー規制
SmartTimes ネットイヤーグループ社長 石黒不二代氏
デジタル時代のデータ利用については、総論では誰もが賛成する時代だろう。
世界経済フォーラム第四次産業革命センターでは、データ利用に関して「個人の人権」「データホルダーにとっての合理性」「公共の利益」の3軸のバランスをとっていくことを推奨しているが、日米欧ではこのバランスに差異がある。

2018年、EUでデータは個人のモノとして制度設計すべしという「GDPR(一般データ保護規制)」が施行された。20年には日本も第三者がデータを提供することに本人の同意を必要とする法案が閣議決定され、デジタルマーケティング上の「Cookie(クッキー)」の取り扱いが規制された。私はこの規制が将来的に企業間の格差を生み出すと懸念している。
クッキーというのは個人がウェブを訪問するときに自動的に振り当てられるID。ログイン情報をためたデータで「訪問管理表」のようなものだ。自社運営するサイト内で発行する1st Party Cookieと広告など自社サイトの外で発行される3rd Party Cookieがある。3rdは企業間でデータの売買もできるので、これを自社が持つ1stと紐付けると、IDの特徴がより分かる。その結果、利用者の興味、関心に近いコンテンツや広告を打ち出すことができる。リターゲティングという以前見たサイトの広告が出てくる手法は、この3rdの追跡を通したマーケティングだが、リターゲティングや3rdの利用に制限がかかったのだ。プラットフォーマーたちは、この規制に迅速に反応した。グーグルが3rdの利用を廃止すると発表し、アップルは大規模な家電の展示会にチーフプライバシーオフィサーを登壇させた。
一方で、個人利用者の間ではよりパーソナライズされたコンテンツのニーズが高まっている。溢れる情報の中で自分が取捨選択するよりもプッシュ型でより関心の高い情報を送ってもらった方が安気だ。以前、何となく気持ち悪かったリターゲティングにも慣れてきているようにみえる。つまり、プラットフォーマーは、3rdを使わなくても自社サイトで集められる1stの利用だけで、十分な個人の行動データを集められ、利用者もより良い顧客体験を得られているのだ。その結果、プラットフォーマーの力はより強大になっている。
この構図は、企業の大きさにも影響を及ぼす。大手の方がより多くの巨大サイトを運営しているから小さな会社よりデータを収集できる。それは利用者にとって利便性の高いサイトになり安心感も覚える。このようにクッキー規制はプラットフォーマーや大手に有利な競争結果をもたらすと私は考えている。データを持つもの、持たざるものの格差を再考すべき時にきている。
[日経産業新聞2021年1月22日付]関連企業・業界