大学で広がるデータサイエンス 文系も必須、学部新設

データや統計を分析して新たな価値を生み出し、ビジネスなどに活用する「データサイエンス」という分野の学部・学科や教育プログラムが大学の間で広がり始めた。キーワードは「文理融合・共創」。文系・理系にかかわりなく、全学的な取り組みとして推進していくことを目指す。
中央大学商学部4年生の越智百花さんは卒論を書くため、ウェブ上で約200人にアンケートを実施、データサイエンスの手法で結果を分析した。「プログラミング言語は難しくて試行錯誤したが、仮説を検証できてよかった。文系の私にとっては重要な体験だった」

データサイエンスとはデータを収集、分析し、価値を創造していくこと。その担い手がデータサイエンティストだ。デジタル社会の進展で、データ人材の育成はいわば「時代の要請」。ネットワーク技術や分析ツールの普及、汎用品化で多種多様なデータの入手が容易になったことも追い風となり、数年前から大学での授業も広がり始めた。幅広い素養が必要なことから学部横断、全学的な取り組みも多い。
中央大ではこれまで各学部で「情報」「統計」関連の講義をしてきたが、2021年4月からは全学部生を対象にデータサイエンス教育を始める。リテラシー(入門)レベルから応用基礎レベルまで4科目を用意した。単位も取得できる。AI・データサイエンスセンター所長の樋口知之教授は「あらゆる産業がデータを元に意思決定していく『データ駆動型』になる」と強調する。
統計の重要性を説き、日本の統計制度を確立した大隈重信を学祖とする早稲田大学。すべての学部、研究科の学生約5万人を対象に18年からデータサイエンス教育を開始した。プログラムを順次増やす一方、21年度からは各レベルの要件を満たした学生に修了証明書を発行する独自の認定制度も設ける。学生のモチベーションを高め、キャリア形成にも活用してもらう。
早稲田大ではデータサイエンスを「データを使って合理的に意思決定すること」と定義する。その対象分野はビジネスにとどまらず、政治、医療、芸術、スポーツなど幅広い。「専門性+(プラス)データサイエンスの能力を持った人を年間1万人出していきたい」とデータ科学センター所長の松嶋敏泰教授は話す。
「20世紀は『クルマの世紀』で、モータリゼーションが社会を変えた。21世紀は『データの世紀』。車の運転にドライバーが必要なように、データを駆使できる人材が必要だ」。21年4月にデータサイエンス学部を開く立正大学の吉川洋学長は、新学部発表会の席でこうあいさつした。文系理系にかかわらず、実社会で価値創造ができる人材を育てたいという。
大阪工業大学は21年4月、情報科学部にデータサイエンス学科を設置する。既存4学科を含め「5学科の学生がチームを組み、実社会の課題に取り組みながら学ぶ」(情報科学部長の佐野睦夫教授)点が特徴だ。
取り組みは女子大にも広がる。お茶の水女子大学では19年、文理融合AI・データサイエンスセンターを設立。「女子大がリードしてきた家政系の学問分野にもデータ分析が重要な場面は多く、データサイエンス教育に取り組む意義は大きい」。センター長の伊藤貴之教授はこう強調する。
23年には一橋大学が「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)」の開設を計画するなど今後も専門学部・組織の設立が続きそうだ。
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データ人材教育、担い手確保課題 米国などに出遅れ
政府は「AI戦略2019」で「数理・データサイエンス・AI」をデジタル社会での「読み・書き・そろばん」的な素養として、大学生、高校生などの教育に力を入れ始めた。デジタル人材の裾野を広げることは急務といえる。ただ、早い段階からデータサイエンス教育に力を入れてきた米国などと比べ、出遅れたという指摘は多い。
内外の経営環境が激変し、企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手した。改革を進めるためにはデータに基づく意思決定が必要な場面が増える。産業界のデジタル事情に詳しい三菱総合研究所では「事業を理解したうえで、統計ツールやデータを扱える人材がより求められている」と分析する。
こうした産業界など社会ニーズの高まりは「知の拠点」である大学には追い風だが、データサイエンス教育に精通した担い手をいかに確保していくかは大きな課題だ。大学自身、18歳人口の減少で学生獲得の競争にさらされるなか、学生教育はもちろん、今後は社会人教育への貢献も求められるだろう。
(滝沢英人)
[日本経済新聞朝刊2021年1月20日付]
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