話しかけてこない美容室 気遣いいらず、感染リスクも減
先読みウェブワールド (野呂エイシロウ氏)
新型コロナ以降、飲食店ではいろいろな対策がある。この間入った和食屋は予約もネット。その後、注文も座席でスマホ。決済もスマホ決済と一度も店員と長話をする必要がなかった。最近は喫茶店などでもタブレット注文や、座席でのスマホ決済の店などが続々と登場した。そう、新型コロナで我々の生活はITによって大きく変化している。

中でも接客時間が長いのは美容室、理容室、エステなどではないだろうか。筆者も店員に「黙ってほしいな」と思うときもある。今はコロナ対策も必要で「大丈夫か」と不安になることもある。そんな不安を独自のスマホアプリで解決したヘアサロンがPERCUT(東京・世田谷)だ。
「前回の緊急事態宣言が発令された月は大きく赤字が出たが、時代に合わせた対応を迅速にできたことや男性客がメインのためか戻りも早く、次の月には黒字に戻った」と川口達也社長。幼少の頃、親の事業倒産を経験。さらに表参道でカリスマ美容室を目指すも違和感を感じ、今のようなスタイルになったという。
特徴はアプリを使って顧客のニーズをつかむこと。中には髪形の要望はもちろん、スタイリストとの雑談の有無も選ぶことができるという。
「男性は美容室での雑談を好まない人もいるので居心地良く感じてもらえることが多い。ヘアスタイルについての会話のみで、サービスの本質的なやりとりが無言でもきちんとできる」。最初は顧客のニーズにこたえるためのアプリだったが、結果的にコロナ対策としても好評だった。2020年の売り上げも19年より若干プラスというから、功を奏している結果で、アプリをダウンロードする顧客も9割を超えているという。

アプリ内のヘアカタログ機能を利用して、ヘアスタイルを写真でオーダーする顧客の割合も増えた。女性は雑誌の切り抜きや有名人の写真などを持参して髪形相談をするそうだが、男性はなかなか難しい。10年ほど前、筆者もハリウッド俳優のジョージ・クルーニーさんの写真を持っていってオーダーし、笑われた経験がある。だがアプリなら気兼ねなくできる。対面だと言いにくいヘアスタイリストの変更も気を使わずにできる。
筆者の感想だが、今どきの若者はコミュニケーションの中心がスマホになり、非音声通話のLINEなどになっている。仕事もコロナの影響で非音声が当然となった。だからこの店のように若い顧客の多い店は、さらに加速度的にこのようなアプリを使ったIT化が進むだろうと思う。
「生活の中で一番手にするスマホの中に美容室のアプリケーションを入れてもらうことで、リピート率が上がると考えている」と川口社長。さらに「今後はすでにダウンロードしている既存の顧客から口コミで、新規顧客に来てもらえるような紹介機能の追加を検討している」という。直接、人と会話することがリスクとなった今回のコロナ禍。IT活用で「雑談不要」をはじめ、顧客のニーズにこたえることが容易になった。それは顧客が遠慮をしなくてもいいということになる。つまり気を使う必要性がないということだ。それは、そのまま安心にもつながるはずだ。
[日経MJ2021年1月18日付]