伊集院静「ミチクサ先生」(225)
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「……そうか、人間というものは、同じような光景を見た時に、記憶がよみがえるのか」
金之助はもう一度、沈もうとする夕陽を見た。
やはり駿河台や、本郷の坂道に立ち止まって眺めた夕陽のあざやかさと同じだと思った。
しばらく陽光と彩雲に目を奪われ、金之助は声に出して言った。
「あの人は今、どこで何をしているのだろうか?」
声に出してみると、忘れていたはずの時間がよみがえり、金之助は淋(さび)しい気持ちになった...
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