伊集院静「ミチクサ先生」(217)
[有料会員限定]
あと十五町ばかりの山道で、しとしとと雨が落ちて来た。山川が雨笠を金之助に渡し、彼は油紙を肩から被った。金之助も用意しておいた赤い毛布を頭から被った。雨雲を仰げば海の方の空が白みはじめているから、長くは続きそうもない。二人とも山登りに慣れていた。
雨が降ると鳥の鳴き声がやんだ。雲雀(ひばり)の声が先刻まで軽やかに聞こえていたので、金之助は雨がくやまれた。雲雀の声を足で踏んでいるような歩行ですこぶる心...
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。
残り653文字