低速自動運転車が配送する未来 家や玄関の形さえも変わる?
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
第四次産業革命の時代の中心的な技術のひとつとして期待されているのが自動運転車だ。技術的には実用的な段階に来ているものの、まだまだ世界的にも普及には時間がかかっている。やはり安全面の懸念が一番大きな障害であることは間違いないだろう。

そうした中で特に日本では有望な技術とみられているのが、時速20キロ以下の速度で走る低速自動運転車だ。まず時速20キロ以下になると、事故を起こした時のリスクがとても小さくなる。人とぶつかったとしても人間側のダメージも限定的になる。走行に関するリスクが小さい分、通常の自動車に比べて車体のコストも大幅に小さくなる。そのため自動車会社ではない異業種からも参入しやすい。現在日本でもソニーやパナソニックなどの家電メーカーも参入してきている。ZMPのようなベンチャー企業も参入しているが、資金が限られている企業にもハードルが低い市場といえるだろう。
この低速自動運転車は人を運ぶだけでなく、モノの運搬用途としても期待される。EC市場の急成長に加えて、在宅時間の増加が宅配需要を急激に増やしており、ラストワンマイルと呼ばれる個別の家への配送は運送会社にとって大きな負担になっている。低速自動運転車が街中を自由自在に移動できれば、配送コストが劇的に下がり、様々な新しいデリバリービジネスが登場することも期待される。
そうした中でパナソニックは、神奈川県藤沢市にある自社の工場跡地に建設したスマートタウンで低速自動運転車を活用した配送実験をスタートさせた。先日筆者も見学に行って来たが日本で初めて住宅街の公道を実際に走行する実験となっている。今回は特別に原付き免許での走行となっており、道路を渡るときなどは遠隔の管制室からの遠隔操縦に切り替えることで走行が許される形の実験となっている。時速4キロという人間の歩行速度並の速度なので、ロボットが動いている感覚だ。

声を出す機能があり、「止まります」「曲がります」などは自ら声を発するが、いざという時は管制室から周囲に声を出すこともできるようになっている。現在はもの珍しさもあって子供たちが近寄ってくるなど住宅地特有の課題なども出ているようだが、今後は実際に食べものなどのデリバリーや複数台走行などへ発展させる予定のようだ。
こうした運搬が普通になると、家の作り方も変わってくるだろう。玄関の段差などはこれまでは高齢者のバリアフリーを意識してきたが、これからはこうした車両が自宅に出入りするために段差を設けないなどの考慮が必要になってくる。玄関の構造そのものから見直す時期に来ているかもしれない。外側から配達したものを入れて、内側から受け取ることができるボックスが玄関横に備え付けられる日も近いかもしれない。
また冷凍食品の増加なども予想される中で、ボックスに冷凍冷蔵機能を備える可能性もある。そうすると冷蔵庫そのものが玄関側に設置され中身が自動で補充されるようなサービスも登場するだろう。低速自動運転車が街を走り回る未来は街と住宅の構造、ショッピングスタイルまでを大きく変える未来なのかもしれない。
[日経MJ2021年1月8日付]