人気バルが異色のラーメン 生ハムとポルチーニのだし

新型コロナウイルスの感染が広がりつつあるころ真っ先に取材したのが、飲食店「サカナバル」を展開するアイロム(東京・渋谷)の森山佳和社長だった。来店客が激減するなか、テークアウトメニューを組み立て、自身でママチャリに乗って宅配する姿勢に胸を打たれた。
東京・恵比寿にある旗艦店は2012年10月のオープン以来、鮮魚を中心としたバル料理で人気を博し、連日満席が続いていた。コロナ禍においても、一時期は客数が減ったものの、すぐに復活。感染対策で席数を減らしたこともあり、現時点でも予約をしないと入れないほど盛況だ。
そのサカナバルがさらに攻めてきた。昼間をラーメン店「サマル」として、昼夜の二毛作営業を始めたのだ。12月上旬からプレオープンとして、試験的に塩味の「特製拉麺(ラーメン)」(850円)を提供した。21日から本格営業している。筆者はプレオープン中に取材、実食した。

テーブルに運ばれたラーメンは香りの強いハーブの一種、セルバチカがたっぷり盛られ、チャーシュー代わりのポルケッタ(イタリア式のローストポーク)がどんぶりを覆い尽くす。
湯気とともにローズマリーやオレガノなどのハーブの香りも立ち上がり、いわゆるラーメンらしさは感じられない。
だしはプロシュート(イタリア式の燻製しない生ハム)と乾燥ポルチーニ茸(たけ)をぜいたくに使い、塩味でまとめている。スープにはカツオ節や煮干しも入っているが、それら和のテイストを生ハムの風味がやさしく包み、複雑なうま味を出している。
麺はストレートの中細麺で歯触りと、のどごしの良さを両立している。聞けば中国料理の名店「希須林」グループの担々麺専門店「揉合麺荘(ロウフゥメンソウ)」が麺を監修したという。パスタで使用するデュラムセモリナ粉を混ぜて、サックリとした歯触りに仕上げた。なるほど白ワインにも合いそうなバルラーメンに仕上がっている。
「コロナの影響はまだ長引きそうです。今後、夜の集客に期待できないなら、昼の営業を開拓したいと考えました。せっかくやるなら店名も変えて、夜のメニューとかぶらないラーメンに挑戦しました」と森山社長は二毛作営業の狙いを語る。
ラーメンの味作りもこだわった。「世の中にはすでにおいしいラーメンがたくさんあり、完成されている。スタッフにある条件を出して、プロジェクトをスタートしました」と森山社長。その条件はだしに「生ハム」と「キノコ」を使うことだった。
十数回の試作を経て完成したのが、サマルのラーメンだ。現在は「特製拉麺」の味を引き継いだ「淡麗塩味拉麺」(850円)と魚介の風味を強めた「白醤油拉麺」(同)の2種類と、「ルーロー飯」(350円)でランチに挑む。
世の中が激変するなか、したたかに変貌を遂げる――。森山社長の挑戦に勇気をもらった。2021年も頑張ろう!
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。おいしいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"おいしい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出合った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2020年12月25日付]
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