外科手術の技育てるVR 医療機器の販促ツールにも
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
もし自分が外科手術を受けることになったら、熟練の医師に執刀してもらいたい。できることなら失敗しない医師にお願いしたいと思う。

先日、VRを活用した医療トレーニングで、外科医全員を"ドクターX"にしてしまおうというスタートアップ、Osso VRのジャスティン・バラッド最高経営責任者(CEO)の話を聞く機会があった。
現在、全米の病院では、新型コロナウイルス対応により予算がこれまで以上にひっ迫し、新たなトレーニングマシンの導入など、質の高いトレーニングを行うことが難しい状態が起こっているという。しかしながら、適切な医療を提供するためには、外科医の育成が必要不可欠であることに変わりはない。
そんな中、費用対効果の高い外科医トレーニングソリューションとして、VRが注目されている。バーチャル手術室を作成することで、外科医はリスクのない環境で手術のプロセスを学ぶことができ、実際の手術の前に十分な訓練を行うことができる。高価なシミュレーターや解剖などの対面でのトレーニングが限られている現在、VRトレーニングこそが最適なトレーニング手段なのだ。
現在Osso VRは、世界20カ国以上の医療関連の教育機関に導入されている。実際に行われた臨床試験では、Osso VRを使用した後、外科医の効率が3倍向上したという。ハーバード・ビジネス・レビューで発表された研究では、従来のトレーニング方法と比較して、Osso VRでトレーニングを受けた外科医のパフォーマンスは大きく向上し、手順速度は20%向上、正常に完了した手順数は38%増加したなど、驚異的な成果をあげている。
加えてOsso VRは医療教育機関だけでなく、世界大手の医療機器企業12社を含む30社以上にサービスを提供している。
医療機器企業は医療機器を販売すると同時に、機器を使ってもらうため医師をトレーニングする必要がある。Osso VRによると、大手医療機器各社は医師のトレーニングに年間2億ドル近くを費やしているという。

この医療機器企業との協業が急速な成長の鍵となっている。サービスを医療機器会社の営業担当者と提携して販売することで、より早く、より効率的に病院や診療所に届けることができるのだ。さらには機器の販売サイクル短縮にも貢献しているという。
VRというとまだまだゲームの印象が強い。今回の事例を聞いて、VRの教育という側面でのさらなる可能性を感じた。医療機器以外の分野でもVRを販促のツールとして活用できるのではないか。
コロナをきっかけに、オンラインコミュニケーションに慣れてきた。動きや感触などが必要な場面では、さらに一歩進んでVRが活用される場面が増えることは容易に想像できる。既に米国では家を探すのにVR内覧、自動車を買うのにVR試乗といったことも行われている。フェイスブックが開発するVRゴーグル「オキュラス・クエスト2」が3万円台で手に入る時代、販促としてのVR活用は今後さらに増えていくだろう。
[日経MJ2020年12月18日付]
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