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脱炭素へ公共交通支援を 政官財一体の取り組み必要

Earth新潮流 日本総合研究所理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

政府が策定する追加経済対策では、脱炭素社会に向けた技術開発の後押し、デジタル化推進、新型コロナウイルス感染拡大に対応する医療支援の3つが柱になるという。また、2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間、継続して支援するという。

新たな路面公共交通システムの試験走行で、名古屋駅前に停車する燃料電池バス(右)。左は通常の路線バス

政府の「2050年までに温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言は、日本全体が世界の潮流から取り残される「座礁資産」を回避するために不可欠な判断だったと評価したい。

ただ、その達成は容易なことではない。達成を後押しする政策にも従来とは異なる手法が求められる。最大のポイントは「野心的なイノベーション」と称されるような「脱炭素社会に向けた技術開発」の一本足打法に陥るのではなく、日本の産業構造自体を遷移させていく強い意思を政官財で共有できるかだ。

これまでの「どんなビジネスをしようとも、原則、政府は介入せず、民間に任せる」という発想を、将来世代のために必要に応じて修正していくということでもある。

脱炭素社会、デジタル化、新型コロナウイルス感染拡大対策を省庁や利害関係者別に別々に推進しようとすれば、必ず矛盾と無駄が噴出することは目に見えている。今回ほど集中と選択が求められている時はない。霞が関と永田町の旧弊に絡めとられてはならない。

◇ ◆ ◇

欧州の進める「グリーン・リカバリー」という言葉が、日本国内でも少しずつ広まってきた。しかし、これがばら撒き型の景気刺激策と異なる点には留意が必要だろう。

例えば、オーストリアでは航空業界の救済に伴い、電車で3時間以内に到達できる場所への航空路線は廃止された。多くの国で将来のパンデミックの可能性を減らすため、植林、森林管理、湿地の回復、害虫や雑草の防除、野生生物の生息地の管理に公的資金が向けられている。清掃と消毒の手順、緊急時の準備プログラム、医療サービスのリソース、暖房・換気・冷房の管理状況などを基準にした第三者認証「WELL Health-Safety Rating」に基づくビル建設の優遇も一例である。

11月26日、一般財団法人の地域公共交通総合研究所が10月22日から11月16日に全国の公共交通事業者124社から回答を得た「公共交通経営実態調査」の報告書(速報)を公表した。そこでは、バス・鉄軌道・旅客船の公共交通の3セクターで、20年4月~9月の間、大幅な輸送人員減少が生じ、深刻な売り上げ減少に直面していることが明らかになった。

何らかの補助や支援が得られないと、19%の企業では今期中に経営維持が困難になり、31%の企業が来期中に経営維持が難しくなるという。合算すれば21年度末までに5割の企業で事業継続ができない可能性が示されたことになる。

地域には、児童・生徒や高齢者などをはじめとして自家用乗用車のハンドルを握れない人々が多数存在している。また、島しょ部では旅客船が唯一の島外に出る足となっている場合もある。仮に公共交通機関の5割が事業継続できないとなれば、そうした人々が移動の自由を奪われる深刻な事態になる。

同時に脱炭素社会を目指すうえでも、これは看過できない。10年以上前から「自家用乗用車より鉄道・バス等の公共交通機関を利用すれば、二酸化炭素(CO2)排出削減につながる」と指摘されてきたが、モータリゼーション促進に歯止めはかかっていない。◇ 

◇ ◆ ◇

今後、自家用乗用車も再生可能エネルギー由来の電力を使う電気自動車や燃料電池自動車に置き換わっていくのだから問題ないという意見もある。ただ、公共交通機関がいち早く脱炭素化していくなら、社会全体のエネルギー効率や資源効率の観点から公共交通シフトは一層促進されるべきだ。再エネ電力で社会経済を賄うとしても、その総需要量は少ないにこしたことはない。公共交通シフトが、安易な大規模集中電源の新設を不要にすることを改めて確認しておく必要がある。

「グリーン・リカバリー」のひとつの施策として、次のようなアイデアをここでは提案したい。公的資金を活用して、脱炭素社会達成のためのリース会社を設立する。この会社は、輸送人員減少に苦しむ全国の公共交通事業者から車両や船舶を買い取り、各事業者にその後リースを行う。

さらに、脱炭素化のための基金等を活用し、当該リース会社が保有する車両や船舶を、感染症対策の設備も有する非化石燃料を前提とした車両や船舶に順次、置き換えていくのである。

これによって、公共交通事業者は一時的に資産の売却代金を手にすることができ、同時に、将来の脱炭素社会に適合した事業への移行ができるようになるのではないだろうか。

1930年代の大恐慌に直面したあと、経済学者ケインズは「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」と主張したと伝えられる。

「グリーン・リカバリー」が説くのは、「穴を掘って、また埋めるだけより、脱炭素社会に少しでも貢献できるお金の使い方を考えるべきだ」ということだろう。公共交通機関が機能しなくなってしまえば、モーダルシフトという政策自体が実現できなくなってしまう。前例などにとらわれず、あらゆる知恵を動員してアイデアを政策化していくことが、いま求められている。

[日経産業新聞2020年12月11日付]

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