パスタやピザも1人前ずつ コロナ対策徹底イタリアン

コロナ禍での師走がやってきた。筆者は仕事柄、感染対策に気をつけながら食べ歩きをしているが、ヒヤッとする飲食店に何度も遭遇している。
もちろん多くの飲食店が身を削るように感染防止対策に取り組んでいることは承知している。それでも「これではクラスターになりかねない」と、注文前に席を立った店もある。
まず飛沫防止対策がおろそかになっている。例えば、運んできた料理を説明するごとにマスクをずらすホールスタッフ、透明のフェイスシールドが斜めになったまま接客と調理をするカウンター割烹(かっぽう)の料理人、酩酊している先客の隣に案内するもつ焼き屋のスタッフなどがある。わずかにスペースを空けているが、アクリル板などの仕切りがない立ち飲み店もある。
最近は、感染防止の意識が緩んでいるお客も散見される。都内にある一部の大衆居酒屋や立ち飲み店では、新型コロナウイルスの感染拡大がなかったかのようにお客が密接して小さなテーブルを囲んでいる。
こうしたなか、徹底した感染防止対策を貫いているお店が東京・赤羽の「イタリアン酒場Esto.(エスト)」だ。
同店は鮮魚を中心としたバルメニューと料理の盛りの良さで、連日満席が続き、33席プラス立ち飲みコーナーで月商700万円以上をたたき出す繁盛店だった。コロナ禍では席数を10席減らし、立ち飲みも廃止し、「3密」を解消した。

思い切ったのがメニューの提供方法だ。主なメニューの分量を1人前分にして、さらにお客同士でシェアして食べることを遠慮してもらっている。家族客でもシェアはできない。
「もともとはお客様の人数に合わせた分量をシェアしてもらっていましたが、都の要請にもあるようにシェアせず1人前での提供にしました」と三嶋大輔店長。ただしパスタやピザなどは厨房で切り分けて提供する。
このシステムを聞いて、食事をしないで帰る人もいるそうだが、それでもお客には丁寧に説明して理解と協力を求めている。給食サービスなどをてがける東京天竜(東京・文京)が運営していることもあり、衛生管理は徹底している。
いまではお店の考えを理解する常連客や、「取り分ける手間がなく、好きなものを注文できる」と同店を選ぶお客も増えている。売り上げは最盛期の6割ほどにまで戻っている。
レイアウトも工夫した。お客同士が対面にならないよう、席を荷物置でふさいで対面に座れないようにした。「この状況はまだ続くと思います。ならば、早い段階で、安全と快適さを提供しつつ経営を続けられる店作りをしたい」と三嶋店長。今後はテークアウト商品の充実と、土日のランチで売り上げアップを狙う。
飲食店にとって、こうした身を切る安全対策が必要だろう。お客も協力して感染防止を心がけたい。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。おいしいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"おいしい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出合った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2020年12月11日付]
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