純喫茶に香る「昭和レトロ」 Z世代に新鮮さ、非日常の魅力
奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)
令和に入り、「昭和」は若者にとって未体験の新鮮な世界となった。上の世代にとっては一層のノスタルジー感が高まりつつある。

そうした中で「昭和レトロ」と呼べるブームがじわじわと盛り上がっている。音楽業界ではすでに数年前から昭和だった80年代のレトロブーム。日本で大人気のK-POPも80年代ダンスミュージック風が流行っている。
ちなみに今年アメリカではいまだに根強い人気のレトロなLPレコードの発売数が、ネット配信によって落ち込んだCDを上回るという現象もおきた。日本ではかつて一世を風靡したカセットテープで音楽を聴くラジカセも人気になっており、ラジカセを専門に扱う店まで登場している。
スマホカメラの高性能化によってデジカメは苦戦している一方、富士フイルムの「チェキ」のようなインスタントカメラが若者に人気だ。逆光やちょっとぼけた感じなどのアナログ写真のテイストが受け、現像した写真をスマホで撮影してSNS投稿する人も多い。
インスタグラムの「#写ルンです」の数も3日時点で90万件を超える。SNSの中でより個性的な表現を追求する道具として、アナログには可能性が残っているのだろう。
飲食業界でも昭和レトロはひとつのトレンドだ。数年前から昭和風の「横丁モデル」の飲食街は人気で、コロナ禍でも先日渋谷にオープンしたMIYASHITA PARKの渋谷横丁は連日満員の状況だ。そんな中で屋上BBQをプロデュースしていた企業が、コロナによって一気に市場が冷え込む中で目を付けたのが純喫茶という業態だ。
長年の喫茶店をリノベーションしてオープンした「不純喫茶ドープ」の1号店は、中野というサブカル聖地という立地もはまった。思惑通り地元のミュージシャンのツイッターから人気となり、SNSだけで口コミで広がり行列ができるほどの人気店となっている。すでに湯島に2店目もオープンさせた。
REALBBQ取締役の福山俊大氏は「純喫茶型は時代遅れに見えるが、安定していてコロナにも強く、付加価値を与えることでビジネスとして成立する」と語る。

食べ物も原色のクリームソーダや硬めのプリンなどの純喫茶の定番に加え、窒素を使った最先端のニトロコーヒーもそろえる。看板や内装も昭和レトロを意識しつつも現代テイストをしっかり組み込んだデザイン。Wi-Fiや電源はないが、キャッシュレスオンリーというあたりも昭和と現代が共存している店舗らしい。今後はやはり昭和レトロである銭湯を使った居酒屋などにも挑戦するようだ。
ニューノーマルの時代のリアル店舗には、わざわざ出かけても行きたくなる価値がますます求められる。再開発によって似たようなステレオタイプの街が増えれば増えるほど、正反対の非日常感を持つ昭和レトロの価値は高まる。
そういう意味でZ世代には新鮮であり、30歳以上には懐かしさのある昭和レトロはコンテンツとしての魅力が大きい。インバウンドが復活したあかつきには外国人にとっても、日本文化の1つとして魅力的な対象になることは間違いないだろう。
[日経MJ2020年12月4日付]