デジタルとアナログ融合
SmartTimes PwCコンサルティングパートナー 野口功一氏
今年もあと1カ月あまりとなってしまった。新型コロナウイルスによる大きな変化を余儀なくされた人類にとって、間違いなく歴史に残る1年だろう。当たり前だった人との接し方や働き方、ビジネスのあり方などが大きく変わった。一刻も早くこの状態が改善されることを望むが、コロナをきっかけに様々なことが進んでいる事実もある。

例えば、社会の分断化、働く人同士の関係性の変化、環境問題へのアプローチの変化などである。その中には今の状態が改善されたとしても、一度経験すると元に戻れない習慣もある。
よい例がリモートワークだ。ここまでリモートワークが浸透すると、たとえ感染リスクがなくなったとしても、通勤や出社が減るのではないかと言われている。確かにリモートワークができる業務やそのインフラが整っている環境では元に戻すことは難しいだろう。
一方で、人の集いや旅行などは制限が緩んでくると、人と直接コミュニケーションするのが最善という再認識が広がりにぎわいが戻るのではないか。いくらデジタル化が進むとはいえ、人との直接的なつながりは止められない。
デジタル化に伴い仕事やコミュケーションが効率化し、最低限のことで物事をすませる「余白」がない世界になってきていると感じる。一方でその「余白」が価値を生み、創造性を高めることも事実であろう。デジタルの力を使って生産性を高め、人間との直接的なやりとりで創造性を育み新たな関係を築く。ドライなデジタルと感覚的なアナログというかけ離れた概念を有機的につなげる。そして、ハイブリッド化して新しい価値を生み出していく。
現在、様々なリモートワークのツールが活用されているが、これまではリアルの世界での仕事や打ち合わせの置き換えに焦点をおいたものが多かった。だが、最近ではプレゼンテーションの臨場感を出すための機能や、リアルな場でのプレゼンテーションではできないことをデジタル上でできるようにするアプリなど新しい価値を生み出すシステムが登場している。こういった新技術を活用するとデジタルのドライな一面が一気にウエットな感じになり、ワクワク楽しくなってくる。
古代ギリシャではアゴラという広場に人が集まり、語り、思想をめぐらし、市場や経済が成り立っていたという。社会という概念の起源とも言われる。コロナ禍ではこのアゴラのような対話の場が成立しにくくなっている。いわば社会生活の概念が根本的に変わりつつあるのだが、人間がコミュニティーを通して求める普遍的な価値は多くある。デジタル化の良さを生かしつつ、どう社会を再構築するか? この命題をアフターコロナの次のステップとして考える時期にきている。
[日経産業新聞2020年11月27日付]