朝井まかて「秘密の花壇」(264)
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十一章 花々の影 18
天保四年も暮れかかり、歳暮祝儀を持参する者が引きも切らず、日がな慌ただしい。
飯田町の清右衛門(せいえもん)も訪れ、懇(ねんご)ろな挨拶を述べた。
「ん。幸(さき)、次(つぎ)ともども、佳(よ)い年を迎えなさい。そうだ、ついでと申しては何だが、帰りにちと立ち寄ってくれぬか。拝借しておる書籍や画を、年内に返しておきたい」
遣いも快く引き受けてくれ、風呂敷包みを預けた。座敷に戻ると...
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