/

米新政権 環境政策に課題 補助金合戦や保護貿易の懸念

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

2021年1月20日、米国にバイデン新大統領が誕生する。4年前、パリ協定に反対するトランプ大統領が選挙で勝利した日、モロッコでは気候変動枠組み条約会議(COP)が開催中だった。パリ協定が米国不在の京都議定書の二の舞になるのではないか、米国の気候変動政策がどこに向かうのか――。国際交渉をよそに、専門家たちがあわただしく意見を交わした。その時、印象的だったのは「オバマ大統領の決めたことのすべてが変わる」というブッシュ政権時代の米首席交渉官の言葉だった。

■ □ ■

バイデン氏は大統領選挙を「2050年ネットゼロ排出」「パリ協定復帰」「クリーンエネルギーの世界のリーダー」とわかりやすいメッセージで戦った。

また、コロナ禍からの「より良い復興」は環境対策でと再エネの推進、蓄電池、電気自動車(EV)や鉄道の電化、ビルや家庭の省エネ、そのためのセンサー技術、小型原子炉、水素、化石燃料にはCCS(二酸化炭素の分離・回収・貯留技術)など具体的な注力分野も示した。再エネ重視で悪影響を受ける石炭産業などの雇用対策も盛り込んでいる。

トランプ政権はパリ協定からの離脱、連邦主導の火力発電所の排出規制を行うクリーンパワープランの廃止、自動車の排出規制の緩和などオバマ政権の気候変動政策をことごとく否定した。

他方、カリフォルニア州は独自に燃費規制や排出量取引を推進。連邦と対立していたからこの選挙結果を歓迎だ。様子見だった他の州でも対策が進み、またカリフォルニア州を中心に州同士の協力も進みそうだ。

山火事なども背景に気候変動対策に対する姿勢を強めるカリフォルニア州の動向も注目される(10月26日、ロサンゼルス近郊)=ロイター

変化がある一方で、変わらないものもある。技術やエネルギーを一つ一つみると、トランプ政権時代に進めていた政策と共通のものが多い。さらに遡ればオバマ政権との共通点も見え、炭素価格に対する考えは違うものの、オバマ政権の気候変動政策がトランプ政権においてはエネルギー・産業政策だったという見方もなくはない。

米国企業は石油・ガスではエクソンモービル、シェブロンがメジャー5社に入り、風力発電ではGEが世界4位、また世界のEV市場をけん引するテスラと様々な分野で高い国際競争力を持っている。

盛り込まれた取り組みが総花的になるのは無理のない話であり、矛盾なく進めるためのカギになりそうなのが具体的な「移行」だ。

最後の討論会でトランプ大統領の質問に対して「石油産業も移行が必要」と答えたが、「石油産業を衰退に追いやるもの」と切り返され、これが激戦だった石油生産が盛んなテキサス州などの投票に影響を与えたのではないかとの指摘もある。経済や産業に配慮した、現実的な手法や時間軸など「移行」の中身が検討されるだろう。

■ □ ■

懸念材料は米国の「分断」だろう。バイデン氏は分断解消を呼びかけたが、支持層には気候変動対策の急進派がいる。上院多数派になる可能性が高い共和党にも、気候変動対策を重視する人はいる。気候変動対策は党派より議員の地元産業次第といわれるほどだ。かじ取りは難しく、妥協も簡単ではない。米国がどれだけ変わるかは「移行」次第だ。

バイデン氏の掲げる環境政策はオバマ政権と共通点も多いが、今の経済や産業に配慮した手法が問われる(2008年12月)

しかし、米国の環境政策が、世界に大きな影響を与えることは確実だろう。まずはパリ協定への復帰だ。国連に通知後30日で復帰となるから、就任早々に行えば米国の離脱期間は4カ月ほどになる。これまでも交渉には参加していたが、復帰となれば停滞気味の国際交渉が一気に活性化する可能性が高い。

欧州連合(EU)、中国、日本も温暖化ガスのネットゼロを発表しており、米国が続けば世界の排出量の半分以上を占める国がネットゼロ目標を掲げることになる。残り半分の国へのネットゼロ目標プレッシャーが強まるのは確実だ。

就任後100日以内に開催すると述べている米主導の気候変動サミットは注目される。2021年11月に延期されたCOP26では2050年への取り組みと30年目標の着実な達成と強化が議論になるだろう。

目標見直しが行われるのは25年だが、EUの気候変動問題担当高官は、政策や排出実績などの棚卸しをする23年の「グローバルストックテイク」が重要であり、準備のための協議が始まるだろう、と指摘する。

また、国連の枠組みにとらわれず、二国間や複数の国での協力を併用する可能性もないわけではない。

気になるのは、中国を念頭においた気候変動対策が不十分な国からの輸入に対抗する関税措置への言及だ。既に同様の措置を検討しているEUとの連携となれば、鉄鋼産業など日本産業への影響も避けられない。日本企業も対応を迫られることになる。

米新政権は日本と同様に、環境産業で世界への貢献を打ち出していく姿勢だが、行き過ぎれば輸出補助金合戦や保護貿易に結びつく。かえって気候変動対策の後戻りや経済をゆがめかねない。

米国が気候変動問題への取り組みを強めるのは間違いない。しかし、米国に限らず、自国に有利な取り組みを提案するのは政界や産業界の本質的な傾向であり、日本も各国との対応に苦労することもあるだろう。冷静に観察し、しかし筋を通す主張をすることが日本には必要となる。

[日経産業新聞2020年11月20日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経産業新聞をPC・スマホで!初回1カ月無料体験実施中

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は1カ月無料体験を実施中です。

日経産業新聞をPC・スマホで!初回1カ月無料体験実施中

 スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は1カ月無料体験を実施中です。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン