「YC」で起業家の道ひらけ
SmartTimes BEENEXT ファウンダー・マネージングパートナー 佐藤輝英氏
10月20~22日、日本のスタートアップ向けに、世界最高峰のスタートアップ養成スクールと評される名門ベンチャーキャピタル(VC)「Yコンビネーター(YC)」の公式イベントが開催された。2年前に続き、日本向けの開催は今回で2回目となる。YCは米シリコンバレーで2005年に設立され、以来累計2500社のスタートアップに投資し、企業の合計時価総額は20兆円を超えると言われている。

最近ではプログラムに参加するスタートアップの40%近くが米国外からの参加だ。最近、インドでユニコーン入りしたレーザーペイというオンライン決済企業や、ナイジェリア最大のオンライン決済企業で米ストライプ社に買収されたペイスタック社もYC卒業生だ。
ストライプ自身もYCの卒業生で、直近の時価総額は実に360億ドルである。他にも人気サービスを展開するデカコーンのエアビーアンドビーやドロップボックスなど、まさに世界を変えるオンラインサービス企業をYCは量産している。最近ではプログラムに参加する企業の領域がさらに広がり、バイオテクノロジーや創薬、宇宙など多様なスタートアップをサポートするようになっている。
半年に一度開催されるこのプログラムには毎回200社程のスタートアップが参加する。狭き門をくぐりYC企業に選出されると、オフィスアワーというYCパートナーから定期的な指導を受けられるセッションに参加できる。YC卒業生しか入れないコミュニティーへの参加も認められ、互いに刺激しあって成長を促す仕組みがこれでもかと揃っている。
そして、3カ月のプログラムの最後に、世界中の投資家に向けて2分間のピッチをする名物のイベントがある。8月はコロナの影響でオンラインでの開催となったが、1000を超える投資家が世界中から参加したとのこと。参加する起業家にとっては、3カ月間徹底的に磨き上げたプロダクトを世界市場へお披露目できる絶好のチャンスとなる。未来を決める2分間のために3カ月を過ごすと言っても過言ではないのだ。
通常はシリコンバレーに拠点を移すことが参加の条件となるが、今年はコロナの影響でプログラムはすべてオンラインで運営されている。日本から参加を目指すスタートアップにとって今は好機だ。今回は京都大学、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学といった日本の大学の協力もあり、YCのパートナー陣とともに大学発イノベーションや起業サポートのシステムについても議論された。
「スタートアップよ、大志を抱け!」と力強いメッセージで締めくくられた今回のYCイベント。変化や課題を機会とし、日本から世界に羽ばたく起業家達の挑戦機運が一段と高まっていくことを願っている。
[日経産業新聞2020年11月16日付]