塔のホテル、食・アート発信 名古屋テレビ塔(名古屋市)
おもてなし 魅せどころ
今秋、リニューアルオープンした名古屋テレビ塔(名古屋市中区)。周辺の公園も「Hisaya‐odori Park」として三井不動産が再開発し、名古屋初出店を含む35店舗が立地する公園施設となった。一時期は解体も取り沙汰された名古屋のシンボルは、市民の後押しもあり、連日多くの人でにぎわう観光地に生まれ変わった。

名古屋テレビ塔は高さ180メートルで、1954年に日本初の集約電波塔として開業した。05年には国の登録有形文化財となった。名古屋市の繁華街「栄」にそびえ立ち、同市のシンボルとなっている。
再開業したテレビ塔には2つの展望施設と、ホテルや飲食店など9つの店舗が入居する。このうち展望施設「スカイデッキ」の天井や床にはミラーを施した。外の景色が映り込み万華鏡のような景色を楽しめるという。
再開業した塔の目玉は「ザ タワーホテル ナゴヤ」だ。塔の中に入っているホテルは日本では例がない。小規模で個性的な高級ホテルに認定される「スモールラグジュアリーホテル」の認証を中部地方で唯一受けている。
ホテル運営会社の藤巻満社長は「電波塔としての仕事は終わったが、これからは中部地方の伝統や文化を発信していきたい」と語る。15室ある部屋は中部にゆかりのある芸術家が自身の作品を用いて一部屋ごとにデザインし、「アートなホテル」を打ち出す。また、レストランの食材は中部3県の海や山の幸を使い、皿は常滑焼を用いるなど徹底して中部産にこだわっている。
テレビ塔周辺の久屋大通公園も同時期に再開発が行われ「Hisaya‐odori Park」(敷地面積約5.4万平方メートル)としてリニューアルした。中部初を含む35店舗が入居するほか、芝生面積約4000平方メートルの「シバフヒロバ」が新たに設けられた。
塔や公園にはコロナ禍にもかかわらず多くの人が訪れるが、一時は解体の危機もあった。テレビ塔は開業当初「東洋一の高さ」と言われ年間100万人以上が訪れる人気観光地だったが、ここ数年は20~30万人程度まで減少。これに伴い運営会社の経営状況も悪化した。南海トラフ地震の発生が想定される中、耐震工事の必要から費用面で解体論が浮上した。
解体に対して、市民が示した答えは「NO」だった。市が実施したテレビ塔解体に関する意識調査で7割の市民が存続を希望した。市民の意見を受け、工費の削減や借り入れでなんとか改修工事にこぎつけた。
テレビ塔運営会社の大沢和宏社長はパリのエッフェル塔を引き合いに「千年先まで残して世界的な文化財にしていきたい」と意気込む。
(名古屋支社 宮田圭)
[日経MJ 観光・インバウンド面 2020年11月8日付]