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欧米企業「CO2ゼロ」に力 日本も産官金で技術革新を

Earth新潮流 日経ESG編集部 馬場未希

米アップルがサプライヤーと協力して創設した基金を活用した中国湖南省にある風力発電所=アップル提供
NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

米アップル、独フォルクスワーゲンなど巨大ブランドオーナーと呼ばれる企業が、iPhoneや自動車の製造における二酸化炭素(CO2)排出の実質ゼロに乗り出している。これは、鉄やプラスチックなど素材の製造を含むものづくりで一貫してCO2ゼロを目指すことを意味する。

アップルは7月、2030年までに製品製造を含むサプライチェーンからのCO2排出を「カーボンニュートラル(炭素中立)」にすると発表した。同社のサプライチェーンで排出量の76%を占める取引先工場において、生産設備の稼働や素材の製造などによる排出を大幅に減らすという。

18年にはオフィスやデータセンター、直営店など事業で使う電力をすべて再生可能エネルギー電力に切り替える「RE100」を達成した。サプライヤーにも再エネ電力の利用を働き掛け、生産設備の稼働によるCO2排出量を減らす。すでに17カ国の71社が、アップル向け供給品を再エネ電力のみで製造すると約束した。サプライヤー工場で約780万キロワットの電力消費が再エネに切り替わる計算だ。

もう一方の素材製造におけるCO2削減の第一歩がアルミニウムだ。ノート型パソコン「MacBook Pro」16インチで「CO2フリーアルミニウム」の採用を発表した。

このアルミ製造技術は資源会社の英豪リオティントと米アルコアの合弁会社、エリシスが開発した。通常ならCO2を排出する精錬工程で、触媒の材料を替えることでCO2の発生をゼロにした。アルミを多用する同社製品への採用拡大が期待されている。

サプライヤーにも促す

アップルは7月の発表で、全ての製品についてアルミや鉄、プラスチック、ガラス、紙といった素材はCO2排出を抑えて作られたものを使うと強調した。鉄鋼・金属や化学などの素材産業は、製造工程で石炭や石油など化石資源を使わざるを得ず、CO2を排出する。世界の素材産業が製造技術の革新を進めているが、50年に世界全体で商用規模に至る道筋は描けていない。

アップルはそれでも排出実質ゼロをサプライヤーに強く求める理由を、「他社に対し、気候危機への対処に必要な積極的な行動を促すため」と説明している。

製造時のCO2削減を実現したエリシスのアルミニウム地金塊=リオティントジャパン提供

より裾野が広く、巨大なサプライチェーンを抱える自動車産業でも、実質ゼロの動きが広がる。フォルクスワーゲンは19年、50年までに炭素中立を目指すと発表した。クルマ製造を含むサプライチェーンのCO2排出をゼロにするという。

19年のサプライチェーン排出量の約76%がクルマの走行によるものだ。同社は排出実質ゼロの決め手を、クルマの電動化拡大と使用する電源の切り替えと説明する。電気自動車(EV)の動力を再エネなどといったCO2ゼロの電力で賄えれば、走行時のCO2排出ゼロに近づけるめどは立つとした。

そうなれば、次に着手すべきはサプライチェーン排出の約16%に相当するクルマ製造時のCO2削減だ。先行してドイツ・ツヴィカウにある工場では排出実質ゼロを達成した。再エネの活用や省エネなどを徹底したうえで、それでも残るCO2排出を、森林保護や再エネによるクレジットを調達して相殺した。

EVの場合、調達した素材と部品のうち蓄電池の製造によるCO2排出量が50%以上を占めるという。同社は蓄電池を供給する韓国のLG化学との間で再エネ電力を使うことを契約した。

蓄電池に限った話ではない。同社の「非財務報告書」は「CO2排出実質ゼロのクルマを顧客に提供するため、サプライヤーとの間で契約を進めている」と説明している。

日本の産業界に波紋

日本では10月26日、菅義偉首相が温暖化ガス排出量を50年までに実質ゼロにする目標を表明した。実現に向けては、火力発電や国内の産業などのCO2排出を中心に、残り30年で大幅に減らす必要がある。

GDp(国内総生産)の約2割を製造業で稼ぐ日本の50年実質ゼロは、金融や情報通信などCO2排出が少ないサービス業が稼ぐ欧米と比べてハードルが高いはずだ。日本の製造業が、欧米に比べてCO2排出ゼロを実現する技術革新で明らかに出遅れているわけではない。革新的な技術を急ピッチで開発できるかどうかが世界共通のテーマになっている。

アップルやフォルクスワーゲンといった巨大ブランドオーナーの要請が強まるなか、日本の産業界、とくに素材メーカーは技術革新のさらなる加速と50年実質ゼロに挑むことになるだろう。

企業の環境経営に詳しいみずほ情報総研の柴田昌彦主席コンサルタントは「製品品質の差が縮まるなか、日本製品は価格では中国に及ばず、環境性能で欧州に先を譲ることになりかねない。グローバルブランドを抱える企業とそのサプライチェーンの経営者は早晩、50年までの脱炭素化を自社の課題として取り組むだろう」とみる。

ただ、脱炭素化を企業任せにするだけでは進まない。脱炭素化への道のりには、資金を供給する伴走者が必要なことは間違いない。

その一例が、英金融大手HSBCホールディングスだ。10月には50年までの実質ゼロを達成するため、融資先の排出量を温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」の削減目標に適合させると発表。あらゆる業種と協働して、ビジネスの低炭素化や脱炭素化を促す「移行(トランジション)」のための投融資を優先すると強調した。

HSBCはCO2を多く排出する産業と手を取り合い、移行を支援するために30年までに7500億~1兆ドル(約79兆~約105兆円)を投融資し、「最も排出量が多い業種」が技術革新や移行に当たる事業変革を進められるように融資提案を拡大するという。

日本でも菅政権の表明を実現しながら産業競争力を維持するには、インフラ大改革に導く戦略を政府が力強く示して、産業界の取り組みを加速させる必要がある。さらに、その取り組みに必要な資金をいかに確保してリターンの見込める投融資や助成金として金融界を巻き込んで動かせるか。そのめどなくしては産業界もカーボンニュートラルに全力で向かえないだろう。

[日経産業新聞2020年11月6日付]

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