MaaS成功 協調がカギ
SmartTimes ネットイヤーグループ社長 石黒不二代氏
モビリティー・アズ・ア・サービスの略であるMaaSは、移動手段を単体でなくシームレスにつなぎ一つのサービスとして提供していこうという概念だ。また、移動の発展形として娯楽や飲食、医療などを付加価値として組み合わせていこうという点も特徴だ。このMaaSの取り組みで私は小田急電鉄に注目している。

モビリティー企業の共通の悩みは人口減少だ。今年はこれにコロナ禍が輪をかけた。だが、チャンスはまだある。若者の自動車離れだ。高齢者も車を手放しつつある。小田急はこの顧客層を主要ターゲットに自家用車に頼らないモビリティーライフを作り上げようとしている。
小田急はもともと新宿から小田原を主要路線とし、私鉄の中でも箱根、江の島など有名な観光地も行き先に持っている。また、その間には、多摩ニュータウン、町田、海老名、厚木という中核都市がある。観光地から郊外型都市まで幅広くMaaSを実現しやすいポジションにある。
小田急はまず2つのMaaSに着手している。1つは、オンデマンド型のICTを使った新サービス型、もう一つは統合型サービスだ。新サービス型では、オンデマンド交通の実証実験をしている。タクシーはドアツードアのサービスで移動としての柔軟性があるが、価格が高い。バスは安価だが目的地までの移動には歩行を伴う。
そこで同社が思いついたのが仮想バス停だ。いわゆる相乗りサービスで料金はタクシーよりも安くバスより高い。オンデマンドなのでルートも変えることも可能になるだろう。統合型として始めたのは「EMot(エモット)」という複合経路検索サービスと電子チケットの販売ができるアプリだ。
通常の検索アプリは電車やバスのみの検索で、複数の移動手段を利用する時は自分で計算をしなければならない。EMotでは、タクシー会社やカーシェアや航空会社と連携することにより、タクシーの待ち時間や料金、飛行機の遅れなどの情報を経路検索と同時に一括提供される。まさにラストワンマイルまでの移動や時間を知ることができる。
また、箱根のフリーパスは駅に行くことなしに購入できる非接触のデジタルチケットで、その沿線のサンリオピューロランドなどのチケットもEMotで購入できる。EMotの元になる共通基盤、MaaS Japanには20年10月時点で小田急を含む17社が連携してデータを共有している。小田急の例を見て、MaaS成功の秘訣がわかった気がする。EMotには小田急の名前やロゴは登場しない。利用者の旅行や買い物は小田急だけでは完結しないからだ。MaaSの主役はサービス提供者でなく利用者だ。競争より協調が成功をもたらす。
[日経産業新聞2020年11月2日付]